第17章 七年
「会場を走り回っていれば、喰われる直前の場面にも遭遇するかと思います。私は助けます。その剣士が最後まで剣士の矜恃を失っていなければ、失格扱いとして、次回以降も挑戦出来る様にしていただきたいのです。鬼を相手にした実戦は、良い経験になるはず」
「賛成だ。その様にしよう。⋯⋯痣の事で傷付いてはいないかな? 伝えるべきか悩んだのだけれど」
「仕方の無い事です。しかし、師範と共に、老いて死ぬ事が出来ないのは、辛く悲しい。もっとも、無惨と交戦するのならば、痣のない師範が先に殺される可能性も考えています。もし、その様な事になれば、私も無惨を殺した後、あの方と共に死にます!」
「私に止める資格は無いから、なんとももどかしいね」
産屋敷は、息子に代わって宇那手の肩を撫でた。同じ痛みを共有出来るだけで、彼は随分と救われているのだ。危険を冒してまで、夜に会いに来たのも、心配していたからだけではない。頼りたかったのだ。
「それから、下限の十二鬼月が壱を残して、皆殺された。恐らく鬼舞辻は、今後上弦の十二鬼月を我々に差し向けて来るだろう。現状、一対一で渡り合える資格を持った者は、君以外に存在しない。まだ、他の柱にはそのことを黙っていようと思う。最初から勝てないと思って戦わせれば、本領を発揮出来ずに倒されてしまうからね。義勇としのぶには固く口止めをする。あの二人は比較的、物事を冷静に考えられるから、一人が無理なら、複数人で戦おうと考えるだろう」
「確かに、士気を下げる事に繋がりますね。⋯⋯下弦ノ壱について、私の意見をお話ししても良いですか?」
「勿論だ。聞かせておくれ」
「無惨自ら下弦の鬼を殺したのなら、壱が生き残れた理由は、恐らく気紛れに、気に入られたからです。血を分け与えられた可能性があります。上弦の鬼にも等しい力を手に入れているのではありませんか?」
「あり得ることだ。そして、恐らく力量を試す上でも、無惨は最初に下限ノ壱を動かすはず。私はその討伐に、柱一名と、炭次郎を向かわせようと思う」
「炭次郎様?!」
宇那手は仰天した。どう考えても、彼は経験不足であり、十二鬼月に敵うとは思えなかった。