第105章 無視
「私は、許せない!!」
「落ち着けと言っているだろう!!」
義一は宇那手を激しく揺さぶった後、彼女の目を真っ直ぐ見つめた。
「お前、俺の気持ちは考えたのか? お前のことが純粋に好きな俺を、父親への当て付けのために利用するのか?」
「だって──」
「落ち着けと、あと何回言ったら分かる? ⋯⋯お前、俺の言葉を滅茶苦茶無視するよな? それは、昔からか。お前、本当に俺のことが好きなのか?」
義一の問いに宇那手は口を噤んだ。全身が小刻みに震えていた。義一は、そんな彼女を抱きしめながら言葉を続ける。
「最初は盲愛⋯⋯いや、妄執だった。仕方の無い事だ。あの状況で俺だけが救いだったんだから。痛みや悲しみに飲まれない様に、無心で刀を振る様に教えたのも俺だ。だけど、お前は自分の力で心を知って行った。知った上で、止めても止めても、身体を犠牲にした。子供も⋯⋯養子を取るなり、方法はあったのに、産む事を選んだ。俺は譲歩し続けたが、お前は、本当に人の話を聞かない。無視する」
「貴方は自分の子供の面倒をちゃんと見ましたか?」
宇那手は、鬼殺隊士の表情で義一を睨んだ。
「藤原や、祐司達を家に残せば、まだ幼いあの子達が、貴方の面倒を見ることになるのは、火を見るよりも明らかだった。そう⋯⋯。そういう点で、私は貴方を一切信用していませんでした。血の繋がった子供ですら、一年間碌に世話をしなかった。私が先に死ぬ事は、分かりきっていた事です。だから、私により近い存在を、貴方の傍に遺したかった。あの時代では、貴方の感情を無視し、現実的で正しい選択を続けるしかなかった。怖くても、嫌でも、私が間違えれば、貴方だけでなく、周囲の人間も不幸にする可能性があった。特に藤原は⋯⋯」
宇那手は、義一から距離を取り、正座で彼と向き合った。