第105章 無視
「⋯⋯えっと、食べながら、話をするね」
宇那手は、ぎこちなく口を開いた。目の前にいる人物と、どの様に接して良いのか、分からなくなったのだ。同い年の義一か、年上の義勇か。
「叔母さん、出家しちゃったの。私が死んだ後。責任を感じていたみたい。⋯⋯でもね」
宇那手は、従姉妹に会った。彼女は驚くほど宇那手と瓜二つだった。性格も。
──私が貴女なら、母を許しません。当然の決断です。私は誰も恨みません。貴女の継子の世話をし、家を守ります。
静かに言葉を紡いだ彼女は、なんとその後⋯⋯
「従姉妹⋯⋯美代子は、鋼鐵塚さんと結婚したわ」
「は?!」
義一は、宇那手の予想通り驚いた。宇那手はクスクス笑った。
「偶々、美代子の元で、聞き取りをしていた時に、鋼鐵塚さんが、改良したタイプライターを持って来てくれたの。もう、一目惚れだったみたい。あっちは、鋼鐵塚家として残っているわ。鋼鐵塚さんとその息子は、職人として、銃の製造にも手を出したらしく、そのお陰で徴兵されなかった。彼の作った銃や日本刀は性能が良かったからって」
「⋯⋯銃。そういえば、愈史郎が⋯⋯」
「多分、鋼鐵塚製鉄所の物だと思う。お館様が流したんじゃないかな? 全部、綺麗に、上手く行ったね。私たちの一挙一頭足、何一つ無駄にならなかったね!」
「そうだ。だから、泣く必要は無いんだ」
義一は手を伸ばし、宇那手の頭を撫でた。
「お前の父親は、お前の父親になれて幸せだと思う。⋯⋯何も覚えていないんだ。美人な母親と、出来の良い子供達に囲まれて、幸せだろう」
「ありがとう」
宇那手は弱々しく答えて、桃の果肉をフォークで切り分けた。