第105章 無視
「着きましたよ」
月彦は、少し不機嫌そうに遮った。義一が礼を言って車を降りた瞬間、彼は宇那手の鞄に何かを押し込んだ。
「え?」
「お守りです」
月彦は人差し指で沈黙を促すと、車を降りた。
家族⋯⋯父親公認の家族ぐるみの付き合い。それなら、批判される要素は少ないはずだ。
「娘を、よろしくお願いします」
月彦は、宇那手を冨岡家に引き渡し、帰って行った。
「いらっしゃい、火憐ちゃん!」
義一の姉、蔦は温かく微笑んだ。そして、弟に目を向けて首を傾けた。
「貴方の部屋、雨戸もカーテンも閉めておいたから、外からは覗けないわよ。問題は、アレを見せても良いの?」
「別に恥ずかしいことじゃない。姉さんだって、フィギュアを集めてるだろう?」
義一はそう返し、宇那手に手を差し出した。
「さあ、話をしよう」
「うん」
宇那手は、緊張しながら、義一の後を追った。彼の部屋に入るのは、初めてだ。
入ってすぐ右側の箪笥の上に、額縁が飾られていた。宇那手の雑誌の切り抜きや、ポストカード等。受注生産のアクリルスタンドまである。
「これ、全部買ったの?」
「⋯⋯やっぱり気持ち悪いか?」
義一は、初めて陰りのある表情を浮かべた。
「好きだから。傍に置きたかった」
「言えば全部調達したのに! 高かったでしょう?!」
宇那手の言葉に、義一は安堵の笑みを浮かべた。
「俺が、自分で、手に入れたかったんだ。⋯⋯お前が手に入るか、分からなかったから、せめて⋯⋯。そうだ」
彼はベッドの下の引き出しを開けて、ラッピング袋を取り出した。
「誕生日に渡そうと思っていたんだが、今、渡す。お前が俺を選んでくれた記念」
「ありがとう」
宇那手は、素直に受け取ってリボンを解いた。中身は確認しなくても分かるのだが。
「うわあ! どうしたのこれ?!」
フェン◯ィのテディベア。日本ではまだ販売されていない。相当高額な物だ。
「死ぬ気でバイトして買った」
「嬉しいけれど、無理しないで。貴方のお金は貴方の為に使って! 貴方がくれるなら、なんでも嬉しいから! ティッシュ一枚でも良いから!!」