第17章 七年
宇那手には、次々と想定外の事が起き、冨岡も寿命の縮む思いだった。
それは、胡蝶も同じだろう。朝、元気良く出掛けて行った少女が、血の気を失い、血を吐きながら、気絶をした状態で運び込まれたのだから。
更に追い討ちをかける様、深夜過ぎに思わぬ来客があった。産屋敷本人が、息子を連れて見舞いにやって来たのだ。
これまでも、彼は負傷した隊士の見舞いに出向く事はあったが、最近はずっと屋敷の外へ出ずに過ごしていた。
「杏寿郎から、話を聞いたよ」
彼は胡蝶に向けて、静かに言った。
「それから、火憐の鴉⋯⋯あれは私の物だが、興味深い話をしてくれた。義勇と話をさせて欲しい」
「かしこまりました」
胡蝶は、最早宇那手と冨岡専用になってしまった病室へ、彼と息子を案内した。
────
暗闇の中に落ちた直後、宇那手は懐かしい家の前に立っていた。両親と暮らしていた、小さな家だ。
血の匂いがした。おぞましい気配を感じ、呼吸を制御した。今なら分かる。それが鬼舞辻の物であったと。
「大丈夫ですか?!」
宇那手は、家の前に倒れていた鬼殺隊員に駆け寄った。もう息は無い。鬼にならなかっただけ、マシなのかもしれないが。
家の中を覗く勇気は出なかった。何が起こっていたか、分かったから。
あの時、先に倒された隊士の日輪刀を奪っていれば、何度も母を斬り付ける必要は無かったかもしれない。
後に宇那手は、その日輪刀を手にし、育手を介さずに最終選別を突破した。
月の無い空の下、呆然としていると、あの人が来た。最初は呼び掛けても、手を伸ばしても、応えてくれる事は無かった。
しかし、今は⋯⋯