第104章 始
「すまない! 俺のせいで誤解を受ける!」
義一は、SNSでの無断拡散を危惧して、慌てて離れた。
「⋯⋯すまない。短慮だった」
「別に、健全な十八歳の女の子が、同級生とお付き合いしていても、不思議はないでしょう? 義一君、ちょっと笑ってくれる?」
「は? ああ⋯⋯」
義一は、自然な笑みを浮かべた。瞬間、宇那手は、彼に抱き着いて写真を撮った。
「お前!! 何やってるんだ?!」
「何って、先手必勝」
宇那手は、ツイッターの画面を見せた。「大好きな幼馴染と♡」と文章が添えられていた。
彼女は特に動じる事なく対処した。
「前に宇髄選手とのツーショットを載せた時は、死ねだの、ウザいだの、暴言の嵐だった。国外からも。⋯⋯まあ、ロシア語やスロバキア語なんか分からないし、宇髄さんが黙れって言ったお陰で鎮静化したけれど。もう慣れっこ。リンクに花束じゃなくて、香花を投げて来たヤツもいたし」
「あれか⋯⋯」
義一は遠い目をした。香花を投げ込まれた日、宇那手は、「ファンの方にいただきました。ご先祖様も感謝をしているはず」と、写真を添えて投稿していた。
そのメンタルの強さが、何処から来るのか不思議だったが、ようやく理由が分かった。
不意に宇那手のスマホが鳴った。彼女が慌てて出ると、スピーカー越しに大声が聞こえて来た。
──火憐!! 義一さんと付き合っているのですか?
「あれ? 言ってなかったっけ? でも、他の怪しい人より良いでしょう?」
──また、心ない言葉が溢れたらどうするつもりですか?
宇那手の父は、随分と子煩悩で心配性の様だ。
「別に気にしない。私と親しい人は、私がどんな人間か、良く知ってるから。それよりも、またクーラーの設定下げてない?! 累が風邪を引くでしょう?! 今日はトレーニング休みだし、ちょっと寄り道して遅くなるから、喧嘩しないでね」
宇那手は一方的に通話を切ってしまった。義一は頭を抱えたくなった。何故か、彼女の家族は、彼女と関わりがあった鬼ばかりで構成されている。