第104章 始
「⋯⋯お前⋯⋯知っていて⋯⋯。全部分かって、あんな滑り方をしてたのか?」
「え?」
「呼吸だろう。⋯⋯それに、本来ステップで点を稼ぐべき所に入れているアレは⋯⋯演舞じゃない。そうだろう?!」
「⋯⋯⋯⋯嘘」
宇那手は、驚きのあまり、両手で口を覆っていた。
義一は、確かに義勇に似ていたが、それは子孫だからであって、二人は別の存在だと割り切っていた。しかし、義一は、通常知り得ない事を口にした。
「⋯⋯死ぬまでの間、毎年誕生日に手紙を受け取った。そんな記憶がある。後年の物は、タイプライターで打たれていた。恐らく書き手が、文字を書くのも辛い状態にあったからだろう。そんな⋯⋯つまらない、夢物語を⋯⋯確かに覚えている」
「⋯⋯嘘」
「お前!」
義一は、宇那手の両肩をガシッと掴んだ。
「家族はどうなっている?! 大丈夫なのか?! お前の父親は──」
「ただの人間。安心して。分かってる。⋯⋯鬼舞辻無惨。でも、青い彼岸花は枯れた。⋯⋯枯らしてくれた。嘴平さんが、理解してくれた。あんな物、存在しない方が良いって。彼の家にも、鬼の話が伝わっていたの。ダメ元で手紙を出してみた。⋯⋯理解してくれた」
「⋯⋯お前は昔からそうだ。大切な事は、何も話してくれない。どうして俺を頼らなかった?!」
「頭がおかしいと思うでしょう?」
当然のことだ。
「前世なんて、誰が信じてくれるの? 錆兎も真菰も、何も覚えていない。狂人だと思われる」
「⋯⋯何故、俺たちだけが?」
「やるべき事が残されているからだと思います」
いつの間にか、義勇と会話をしていた頃の口調になっていた。
「まだ、この世界には鬼がいます。救って差しあげたい。きっと、私はそのために、記憶を持ち越したんです」
「なら、俺は?」
「ご褒美⋯⋯でしょうか。私に対する。⋯⋯まあ、私よりも真菰の方が可愛らしいですし、今の私を好きになっていただかなくても、構いません。だから、後ろめたいだなんて──」
「ずっと、打ち明けたかった」
義一は、宇那手を強く抱きしめた。
その瞬間、シャッター音が響いた。宇那手は慌てて周囲を見回したが、犯人は見つからない。