第104章 始
「誰ー?! あー!!!」
真菰は画面を覗き込んで大声を上げた。
「宇髄選手!! 友達なの?!」
「知り合い。あっちはスピードスケートだし、畑違い。それに、かなり年上だから」
「どうでも良いが」
義一が、とてもどうでも良いとは言えない口調で文句を言い出した。
「お前の衣装は、どうしてあんなに露出が多いんだ。お前は何とも思わないのか?」
「滑ってる間、最高時速が何キロ出ているか知ってる? 抵抗が無い衣装の方が良いの。今更何とも思わない」
昔、一度だけ宇那手の父が鬼の様な形相で苦言を呈した事があった。しかし、母に宥められて大人しくなった。
父は癇癪持ちだが、普段はとても優しい、家族思いの人間だ。母は、美しい容姿の持ち主で、未だに二十代と勘違いされる。
どちらも、宇那手の記憶の中では、鬼だ。
(あの研究者が、彼岸花を枯らしてくれて良かった⋯⋯)
もう二度と、鬼は生まれない。父も母も、永遠に優しい家族のままだ。
──二組の宇那手、やっぱ良いよなー
廊下から、声が聞こえて来た。噂話に慣れ切った宇那手は、特に気にしなかった。
──だけど、絶対早死にするって! 容姿端麗、頭も良くって、オリンピック選手だろ?!
──別に良いだろ。永遠に付き合うわけじゃ無いし。今、傍に飾っとくには、最高!
ガタンと音を立てて、義一が教室を飛び出して行った。
「待って!」
宇那手は、慌てて呼び止めた。血筋のせいか、彼は口より先に手が出る傾向があるのだ。
「ふざけるなよ!!」
義一は、隣のクラスの生徒に掴みかかっていた。
「火憐は物じゃない!!」
「お前っ⋯⋯離せ! 離せって!!」
「義一君! やめて!! やめて!! ⋯⋯義勇さん!!!」
「っ?!」
義一は、反射的に手を離した。男子生徒たちは逃げ去ってしまったが、彼は固まっていた。
「ぎ⋯⋯義一君?」