第102章 帰還
神や仏の采配とも言えなくは無いが、彼はそれほど徳を積んでいただろうか? あの偶然は、全て必然だったと言えるだろうか?
宇那手も、冨岡も、殺されていた可能性は十分にあった。
(許せない。許すことが出来ない自分も⋯⋯憎くて、憎くてしょうがない!!)
彼女はベッドの横に用意していた眠り薬を飲むと、そのまま暗闇に意識を落とした。
半刻して部屋に戻った冨岡は、宇那手が涙を流しながら眠っていることに気が付いた。
「火憐」
話がしたかった。一人の娘を、泣かせたまま、放置したくなかったのだ。
「火憐」
もう一度呼び掛けると、彼女は薄ら目を開けた。
「⋯⋯義勇さん」
「火憐、話してくれ。一人で泣くな。もっと頼ってくれ」
冨岡が、彼女の額に手を置くと、益々涙が溢れた。
「私⋯⋯私⋯⋯竈門君を許せないんです!! 分かっているのに。彼のせいじゃないって。だけど、貴方が殺されていたかと思うと⋯⋯どうしても、怒りが抑えられない。こんな自分が嫌なんです!! 彼のこと、嫌いじゃないのに!! 良い子だって、分かっているのに!!!」
「それで良い」
冨岡は、宇那手を抱き起こした。
「良いんだ。⋯⋯柱合会議が終わったら、遠くへ行こう。二人きりで、何処か遠くの、知らない土地で静かに暮らそう。当面の間」
「義勇さん⋯⋯っ!!」
宇那手は、冨岡の胸に縋り付いて、啜り泣くのをやめられなかった。