第102章 帰還
宇那手は、苦笑しつつ冨岡を振り返った。
「はっきり、断りましたよ。⋯⋯私の何処を気に入ったのか⋯⋯」
「職人の仕事に理解があったからだろう」
冨岡は、やや不機嫌そうに返し、窓を開けた。鴉が止まっていたのだ。彼は手紙を読み、顔を上げた。
「三週間後に、最後の柱合会議だ。⋯⋯三人だけになってしまったが⋯⋯」
言い終えてから、彼は失敗したと思った。宇那手が俯き、歯を食いしばっていた。
冨岡は、彼女に歩み寄り、肩に手を置いた。
「悲鳴嶼さんと、伊黒を死なせたのは、俺だ。お前と悲鳴嶼さんが庇っていなければ、柱は全滅していたし、伊黒はひたすら俺の代わりに攻撃を食らっていた。お前だけが背負う必要は無い。寧ろお前は、誰よりも殉職した柱の苦痛や孤独を和らげ、救ったんだ。可能な限り、遺体を遺族に返した」
「ありがとうございます」
そう答えつつも、宇那手の表情が晴れる事は無かった。こういう物は、大抵歳月が解消してくれるのだが、彼女にはあまり時間が無い。
「火憐、そんな顔を──」
「火憐さん!!」
「火憐さーん!!」
「簪女!!」
炭治郎、善逸、猪之助が転がり込んで来た。
「君たち!! まだ傷が完治していないでしょう!!」
火憐は跳ね起き、三人を順番に立たせた。
「特に竈門君は絶対安静でしょう!! 君は私よりも先に痣を出して、日の呼吸を使いまくっている!! 私より先に死にたくなければ、アオイさんの言う事を聞きなさい!!」
「嫌です! 俺、もう隊士じゃありませんから! 命令は聞きません! ⋯⋯謝らせてください」
炭治郎は、床に額を着けた。
「ごめんなさい! ⋯⋯本当にごめんなさい! 全部義勇さんから聞きました。俺が、貴女を一度殺してしまった、と。もし⋯⋯奇跡が起きなければ⋯⋯」
「冨岡さん。なんて事を⋯⋯」
宇那手は、衝撃のあまり言葉を返せなかった。冨岡の言い分は正しい。鬼となり殺された人々、鬼舞辻の気紛れ、先に逝った仲間たち。どれ一つ欠けても、宇那手は戻れなかっただろう。
しかし、それは炭治郎も同じだ。彼は抗っていた。誰も傷付けたくないと願っていた。
「竈門、誰かが貴方を責めましたか?」