第16章 炎と水の演舞
「全集中の呼吸を止めろ」
冨岡が命じた。しかし、宇那手は首を横に振った。
「今解いたら、肺の出血により、血液が喉に詰まって死にます」
答えると同時に、彼女は自力で身体を起こした。目に見える傷は一つも負っていない。
「鴉」
呼び掛けると、上空から一羽が舞い降り、宇那手の腕に止まった。
「お館様に、明日お伺いすると伝えて」
「明日!! 明日!!」
鴉は繰り返し、飛び立って行った。
「反対だ。一週間は休め」
冨岡は、宇那手の背中を摩りながら厳しく指摘した。しかし、彼女は首を横に振った。
「お館様には⋯⋯私以上に時間がありません。一日でも早く⋯⋯っ!!」
宇那手はまたむせて、血を吐き出した。
「煉獄様、ありがとうございました」
彼女は弱々しく頭を下げた。
「お陰で、限界を知る事が出来ました。今の私では⋯⋯到底鬼舞辻を殺せない」
「宇那手、それは間違いだ!」
煉獄は膝を着き、宇那手と向き合った。
「鬼と人間の違いを考えろ。奴らは群れない。仲間を頼らない! しかし人間は、仲間と手を組み、鬼を滅することが出来る! 一人で倒す事を考えるな! 俺も、冨岡も、不死川も、甘露寺も、胡蝶も、お前とならば、喜んで共に戦うだろう!」
「⋯⋯そう⋯⋯でした」
宇那手は、血色を失い、師範の腕に寄り掛かった。
「私は⋯⋯鬼では⋯⋯ない⋯⋯」
気絶した彼女は、穏やかな表情をしていた。