第16章 炎と水の演舞
「お⋯⋯お恥ずかしい⋯⋯限りっ!」
「喋るな」
冨岡は制止し、宇那手の腕を肩に回して支えた。
「けほっ! この様な有様では⋯⋯到底鬼舞辻に⋯⋯っ」
宇那手血を止める事が出来ずにむせ返った。
煉獄は、茫然自失で声を掛けることが出来なかった。彼が血を吐かないで済んでいるのは、宇那手が加減をしていたからだ。隠してはいたが、足に深い切り傷が出来ていたし、全身がヒリヒリと痛む。
最後の一撃を、本気で防ごうとしていたら、骨を折っていただろう。宇那手が寸止めしたお陰で負傷せずに済んだ。
「っ!! 冨⋯⋯岡⋯⋯さん⋯⋯」
宇那手は、涙目になりながら、血を吐き、フラフラとその場に倒れた。
「冨岡! すぐに胡蝶の元へ連れて行け!」
煉獄はようやく言葉を捻り出した。彼自身喉や肺に軽傷を負っていた。
「この娘は、俺の手には負えん! 鍛えるとしたら持久力だ! 岩柱を頼れ!」
それから煉獄は、宇那手の手を握った。
「俺はお前を認める! 柱にも勝る呼吸の使い手だ。俺が死んだら、席はくれてやろう!」
「⋯⋯勿体ないお言葉」
「宇那手⋯⋯」
冨岡は驚いて宇那手の首に手を当てた。痣だ。首筋に、ハッキリと模様のある痣が浮き出ていた。
「問題ありません」
宇那手は、既に呼吸を整え、もう一度僅かに血を吐いて、顔を上げた。
「肺を損傷しましたが、自力でなんとかなります。他は無傷です」
「首は痛めていないのか?」
「首?」
宇那手は眉を顰めた。
「いえ。首に攻撃を受けた記憶はありません。痛みも無いです。それよりも」
彼女はガーゼを取り出し、冨岡の頬に触れた。
「私の集中力が足りず、師範に怪我を負わせてしまいました。お許しください」
どちらかといえば、煉獄の方が大怪我だったのだが、彼女は目もくれなかった。