第101章 ※鬼というもの
「はい」
女性は穏やかに頷いて見せた。和巳は住所を書き殴ると、宇那手に手帳を返した。
「俺は弱くて⋯⋯あんなに小さな子供が戦ってくれたのに、ただ、生きているだけで⋯⋯。あの街でも、爪弾き者として扱われ、百合さんの助けがなければ、逃げ出す勇気も無かった。⋯⋯駄目な人間です」
「それが普通です」
宇那手は、悲しげに微笑んだ。
「先程の、観衆の言葉を聞いたでしょう? 私たちは、不気味で、怪しげで、異常な人間なんです。そうでなければ、化け物と戦う気なんて起こしません。でも、これだけは知っていて欲しい」
彼女は和巳を真っ直ぐ見据えた。
「鬼は、元々人間だったんです。傷口に、鬼の血を浴びる事で、人は望もうとも、望まざろうとも、鬼になってしまうんです。沼の鬼については、もう少し調査が必要ですが、人間であった事は間違いありません。私の父と母も鬼になりました。⋯⋯殺すしかなかった」
宇那手は席を離れた。彼女は、新たな使命を背負い、歩き出した。
鬼に、大切なモノを奪われた人間全員に、何が起こったのか知る権利があるのだ。
(⋯⋯七年で、出来る限りの全てをやろう。鬼殺隊最後の柱として)
彼女が前の車両に行くと、車掌も乗客も怯え切った様子で顔を向けた。
「ご安心ください。悪党は捕らえて縛り上げました。次の駅で、警官に引き渡します」
鬼は決していなくならない。竈門禰󠄀豆子や珠世達を人間と定義したのなら、鬼とは何であるか、宇那手はずっと考えていた。
鬼とは、自分の為に、他者に犠牲を強いて、それを悔いない心を持つ者の事だ。