第101章 ※鬼というもの
──何者なんだ、あの娘は?!
──刀を持った奴もいる!!
──とにかく怪我人が出なくて良かった。
──なんだか分からねえが、助かったのか?!
──一人で立ち向かうなんて⋯⋯
──武士の死に損ないか?
──だが、助かったんだ。それで良いじゃないか。
──気持ち悪いな。あの小慣れた感じ。
「うるさい!!」
夫が立ち上がった。
「見ていただけの人間が、あの子を悪く言うな!! 悪人のはずがないだろう!! あんなに優しい目をした人が!!」
その一声で、全員口を噤んだ。
「⋯⋯呼吸と言っていた」
彼は席に座り直し、声を落とした。
「以前、婚約者が殺され、夜道で襲われた話をしただろう? あの時命懸けで助けてくれた、黒服の少年も、呼吸がどうとか言っていた。あの人は⋯⋯あの人達は、悪人なんかじゃない」
「それじゃあ⋯⋯あの子も鬼を狩る仕事をしていたのね。⋯⋯だから、あんなに落ち着いていたんだわ!」
「ちょっと失礼」
突然、出て行ったはずの宇那手がひょっこり顔を出したので、夫婦は飛び上がった。
「お伺いしたいんですが、貴方を助けた隊士の特徴を教えてください。羽織は?」
「⋯⋯い⋯⋯市松模様の羽織に木箱を背負った⋯⋯」
夫は、少し怯えた様子で答えた。
「和巳さん。鬼はこの世からいなくなりました」
宇那手が名前を呼んだ事で、彼は目を大きく見開き、身体を前のめりにした。
「貴女も⋯⋯彼の仲間なのですか?」
「貴方は確か、ある程度鬼殺隊の事をご存知でしたよね? 私は鬼狩りの中でも、最高位の、柱という階級にあった隊士です。竈門炭治郎君は、私の弟子です。⋯⋯今、この場で仔細をお話するには、時間が無さ過ぎます。⋯⋯もし、里子さんを喰った鬼や、その鬼が生まれた顛末を知りたいのでしたら、連絡先を教えてください」
「教えてください!! 何があったのか知りたいんです!! どうして里子さんが殺されなければならなかったのか⋯⋯教えてください」
「こちらに連絡先を」
宇那手は、万年筆と手帳を差し出した。和巳は、引ったくるように受け取った後、ふと我に返って隣の女性をかえりみた。
「ごめんなさい、百合さん。⋯⋯でも、どうしても知りたくて⋯⋯」