第101章 ※鬼というもの
「⋯⋯本気で言っているのか?」
冨岡は驚き過ぎて、気の利いた言葉が出なかった。
宇那手は、水準以上の美人だ。本人に言っては怒るだろうが、顔だけでも食べていけるだろう。
彼女が見舞った隊士は、皆恋をした。人の何倍も器量が良く、心優しい娘に。実際、ダメ元で恋文を書こうかなどと話し合っている者もいた。
下卑た心の男は、老いる事なく、美しいまま死んで行く宇那手を、束の間の慰み者として、側に置こうと考えていた。偶々会話を聞いた冨岡は、危うくその隊士の首の骨を折る所だった。
「自覚しろ。もっと危機感を持て!」
冨岡は宇那手の両肩を掴んで揺さぶった。
「お前は美人だ。外見も中身も、美しい。卑下するな。片時も俺から離れるなよ。良いな?」
「義勇さん、そんな事──」
「不安だ」
冨岡は、人目も憚らず、宇那手を抱きしめた。
「お前を欲しがる人間は不死川だけでは無い。あいつはまだ良い。だが、お前の外見と⋯⋯身体だけを求める人間も多くいる。実際俺は、そいつらの会話を聞いた。俺が傍で守ると誓うが、何時も傍にいられるとは限らない。自分を守ってくれ。俺は堪えられない。お前が他の男と睦合う姿を想像するだけで、吐き気がする」
「貴方だって美しいんです」
宇那手は、冨岡の腕から逃れて席に座り直した。
「容姿端麗で、多くの隊士の憧れです。⋯⋯お願いします。どうか、私を捨てないでください。⋯⋯いえ⋯⋯何番目でも構いません。他の方に目移りしても構わないので、私をお傍に置いてください」
「何故、理解してくれないんだ」
冨岡は、苛立ちとやるせなさを隠さずに、掠れた声で嘆いた。
「俺の方が、お前に相応しいか分からないくらいなのに。俺の様な人間に、愛情を向けてくれるお前を、どうして裏切ると思う? お前がもし、他の男が良いと言っても、俺はお前を奪い取る! 絶対に渡しはしない」
「義勇さん──」
「お前がもし、他の男と睦み合っていれば、目の前で奪い取り、俺の物だと見せ付けてやる」
冨岡は宇那手の手を取り、指の一本一本を、念入りに舐める様に唇を這わせた。