第101章 ※鬼というもの
「⋯⋯嗚呼⋯⋯それは⋯⋯」
冨岡は、堪らず宇那手を抱きしめた。
「それは怒って当然だ。⋯⋯火憐。お前は、亡くなった隊士たちに会ったと言ったな? 彼らは苦しんでいたか? 泣いていたか?」
「いえ。⋯⋯ですが、私の見た都合の良い夢──」
「夢なら、お前の腕は元通りにならなかっただろう。⋯⋯これまで、お前を厳しく鍛えて来た俺が言うのは、正しいか分からない。だが⋯⋯俺は生きて⋯⋯生き残って、気が付いた。生きている人間は、皆、弱いんだ。強いふりをしなければ、生きて来れない環境にいたが、俺たちは弱い。この世界は、痛みや悲しみに満ちている。だから⋯⋯お前が泣く事は⋯⋯正しい⋯⋯と思う」
「正しくない!!」
宇那手は、益々涙を溢れさせて泣きじゃくった。
「こんなに優しいのに⋯⋯温かいのに⋯⋯幸せなのに⋯⋯どうして、私⋯⋯私⋯⋯。生きているのに⋯⋯。仲間を犠牲にしてまで生きているのに⋯⋯。おかしいですよね? っ⋯⋯気持ち悪いですよね? 泣き止みます! 貴方の継子ですから!」
「俺の⋯⋯嫁なんだが」
冨岡は、苦笑した。
「もう良いんだ。お前は継子じゃない。お前の時間を止めて、子供心を奪い、戦わせた俺の責任だな。⋯⋯普通の娘になれ。お前基準の普通の娘に。全て終わったんだ。泣いても良い」
「泣きません! ⋯⋯普通の十八の娘は、こんなに人目のある所で、泣きません! ⋯⋯ごめんなさい」
宇那手は、滅茶苦茶に顔を拭って、笑顔を浮かべた。
「大丈夫ですから!」
「頑固者。⋯⋯頑固で、堪らなく可愛い娘だ」
「っ⋯⋯あまり、そういった事を言わないでください。勘違いしそうです」
「何を?」
冨岡は、心から不思議に思った。宇那手は胸に手を当てて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「⋯⋯これまで、私は階級のお陰で、多くの隊士に慕っていただいていました。ですが、今の私は、取り立てて美しくもなく、何の後ろ盾も無い人間です。あまり甘やかされては⋯⋯自分の立場を忘れ、価値のある物だと思い上がってしまいそうで、不安なのです」