第16章 炎と水の演舞
「火憐!」
冨岡は、危機感を以って叫んだ。しかし、宇那手の瞳には、未だ強い闘志が燃え上がっていた。
「愉快だ!! 愉快だぞ!! 宇那手!!」
煉獄は、再び間合いに飛び込んだ。今度こそ、全力で息を吸った。
「奥義、玖ノ型、煉獄!」
それは、全身粉砕骨折の傷を負わせてもおかしくない型だった。文字通り、彼は全力で剣を振るった。
宇那手なら、受け止めるなり、かわすなり、致命傷を負わないと確信出来たからだ。
「肆ノ型、盛炎のうねり」
宇那手は、まず炎の渦で技の威力を抑えた。
「捌ノ型、滝壷!」
彼女は完全に炎の渦を打ち払い、なんと剣腹で突きを受け止めた。間髪入れず、すぐに炎の呼吸へ切り替え、矜持を掛けて叫んだ。
「壱ノ型、不知火!!!」
彼女の刀は、煉獄の心臓の辺りで止められていた。
「⋯⋯見事だ!」
煉獄は、素直に負けを認めた。しかし、宇那手もまだ余力があったし、煉獄も死力を尽くしていない様に思えた。
「まだ戦えます」
息も乱さず、宇那手は刀を構え直した。しかし──
「やめろ、宇那手!!」
冨岡が叱声を放ち、宇那手の腕を掴んだ。彼女は反抗した。
「まだ戦えます!!」
「これは訓練だ!! 命を懸ける必要は無い!! 命令だ!!」
その言葉を聞き、宇那手はやっと刀を鞘に収めた。そして、口元を抑え、身体をくの字に曲げた。
「宇那手!!」
冨岡が肩を抱くと、宇那手は呼吸を荒げた。
「っ⋯⋯!! けほっ⋯⋯」
彼女は喀血し、ボタボタと地面を赤く染めた。当然の結果だ。ただでさえ、呼吸は使用している最中に、別の性質の物に切り替えれば、反動で負荷が掛かる。
加えて、彼女は拾弐ノ型の力を限界以上に引き出した。それも、冨岡を庇いつつ。かつて無い程の呼吸を使用したのだ。