第100章 ※一夜
「それなら、今、何度でも言おう。愛している、火憐」
冨岡は、宇那手の額に口付けした。そして考えた。これまで、幾度も鬼が存在しなければと思ったが、鬼がいなければ宇那手と出会う事は無かった。
彼女は、器量の良い、普通の娘として、何処かの誰かと一緒になり、燻る思いを抱えながら、天寿を全うしただろう。
冨岡も、家族と共に暮らし、自らも家庭を築いたはずだ。
望んでいたはずの、当たり前で平凡な生活が、途轍も無く悲しい物に思えて、堪らなかった。これほどまでに、深い愛を知らずに死ぬなど、考えたくも無かった。
「火憐、愛している」
冨岡は何度も囁きながら、宇那手の下半身に手を伸ばした。今度は焦らす様に蜜壺を掻き回し、痺れる様な興奮と快楽に溺れた。
「愛している」
「分かっています。⋯⋯あっ⋯⋯分かって⋯⋯⋯⋯きっと⋯⋯ずっと前から⋯⋯分かっていたのに⋯⋯」
宇那手は生理的な涙を溢して、啜り泣く様に囁き返した。
冨岡は、受け止め切れないほどの愛おしさに、全身を貫かれ、空いている手で宇那手の頭を撫でた。
「愛している」
“愛している”が、彼女を通り抜けて行かない。虚しく掻き消えはしない。しっかりと、心に届いているのが伝わって来た。
「義勇さん! 私も、貴方を愛しています!!」
宇那手は、無理矢理笑顔を作って、冨岡にしがみついた。
「好き。大好き。私に沢山の言葉を与えてくださって、ありがとうございます。⋯⋯あっ⋯⋯私⋯⋯何度生まれ変わっても、貴方と一緒にいたい!! 今度は継子として貴方に寄り掛かるだけでは無く⋯⋯対等に生きたい! 私たちが対等になれる⋯⋯そんな時代に生まれたい」