第100章 ※一夜
「続けて欲しいです」
宇那手は、消え入りそうな声で答えた。
「何度目が覚めても、貴方が隣にいると実感したい」
「これからは、お前の顔を見て眠る。起こしてくれても構わない。⋯⋯薬の影響は⋯⋯何か残っていないのか? 大丈夫なのか?」
「もう、摂取していません。正直、かなり苦しい」
宇那手は冨岡の両肩を掴んで、啜り泣いた。
「足が、ずっと痺れた様な感覚で⋯⋯。手が震えて文字を書くのも難しいです。でも、必ず治りますから」
「助けてやれなくてすまない。せめて、丁重に扱う」
「何を言っているんですか? 多くの人が犠牲になった中で、貴方が生きている事が、私にとって、どれだけ救いであるか⋯⋯。貴方は生きているだけで、尊い人なんです」
「火憐」
冨岡は、苦し気な表情で宇那手を押し倒した。
「俺も同じ様に考えている。何故、それが伝わらないんだ! 姉も、親友も亡くして、お前や炭治郎すら守りきれなければ、俺は恥ずかしくて生きては行けなかった。お前が生き残った事は、俺の唯一の誇りで、何より尊い事なんだ! だから⋯⋯だから、もっと自分を大切にしてくれ! 違うんだ⋯⋯。お前は、俺の心を満たす為の道具じゃない。鬼舞辻がお前に対して抱いていた感情とは違う。お前自身も満たされ、幸せでなければ、俺にとって何の意味も無いんだ!! ⋯⋯どうか⋯⋯理解してくれ」
「理解⋯⋯出来ます」
宇那手は、自分でも不思議そうに答えた。
「貴方が何を言いたいのか⋯⋯全てとは言い切れませんが、理解出来ます」
それから彼女は、苦痛に満ちた表情で言葉を続けた。
「今⋯⋯貴方の言葉が⋯⋯貴方がこれまでくださった言葉が⋯⋯私の中に響いています。貴方は、私が思うよりずっと前から、私を心から愛してくださっていたのに⋯⋯私はそれを察することが出来なかった⋯⋯。今なら、理解出来ます。理解⋯⋯出来るんです」