第100章 ※一夜
「何を考えているんですか?」
宇那手は、冨岡の頬をぴしゃりと叩いた。
「後ろめたいですか? 私に触れる事が、そんなに苦痛ですか?」
「違う。そうじゃない。お前を柱にしなければ──」
「柱にならずとも、痣は出ていたでしょう。竈門君もそうだったんですから」
「⋯⋯すまない。苦痛なはずがない。寧ろ、こんな状態のお前に、触れずにいられぬ事が恥ずかしい。俺は⋯⋯俺は、今、途轍もなく欲情している。全部⋯⋯注ぎたい」
「⋯⋯っ⋯⋯もっとマシな言葉を選べないんですか?!」
宇那手は赤面して顔を伏せた。
「すまない。俺は言葉を知らないんだ」
冨岡は、彼女の頭を撫でて、額に唇を落とした。愛おしさが込み上げて来た。もう、何者にも奪われる事は無い。腕の中にいる娘の全てが、自分の物なのだ。
力を込めて抱きしめると、宇那手は、ビクリと肩を震わせた。
「冨岡さん──」
「名前を呼べ」
「義勇さん! わ⋯⋯私⋯⋯もう、貴方に抵抗出来ないんですから⋯⋯もう少し力を緩めて⋯⋯」
「悪かった!」
冨岡は慌てて離れると、ギクシャク身じろいだ。
「わ⋯⋯悪いが、俺はお前以外を抱いた事が無い⋯⋯。だから⋯⋯」
「乱暴に抱いた事しか無い、と?」
「別に乱暴にしたつもりは無い。そもそも、お前がそうしてくれと言っただろう。⋯⋯俺としては、もっとゆっくり進めたいんだが。順に、全て見せて欲しい」
言うなり、冨岡は、はだけさせた宇那手の胸元を、ただじっと見詰めた。
(張りがある⋯⋯。甘露寺の半分以下だが、触れたら堪らなく気持ちが──)
「何考えてるんですか!!」
宇那手は、胸を隠してあとずさった。冨岡は、何も言わなかった。言葉が分からなかっただけなのだが。
「確かに私の身体は貧相ですが、そんなに座った目で見なくても良いじゃないですか!!」
「いや⋯⋯そうではなく⋯⋯触るべきかどうか、考えていたんだ。胸に触れるという行為は、生殖行為と何の関係もない。お前の苦痛を最小限にするなら、触れるべきでは無いのかと⋯⋯。しかし、俺は堪らなく触れたい」