第99章 最終任務
「鬼舞辻には、此処と並行して活動拠点があった。火憐が把握しているだけでも、資産家の養子、遊郭の女性。外見を自在に変えられた様だ。これまでも、そうやって姿形を変えながら、自分にとって都合の良い場所に身を置いていたのだろう。そして、奴に関わった人間は、悉く消されて来た。火憐は、人一倍責任感の強い隊士だった。知ってしまった以上、鬼殺隊士として、貴女と娘を放っておけなかったのだろう。本音を言うが、鬼殺隊としても、火憐の行動は、決して見過ごせる物では無かった。彼女は剣士の中でも特に腕の立つ、優秀な人材で、頭も良く、民間人数名の為に死んではならない存在だった。それでも、あいつは此処へ向かった。自分自身の知識や身体を代償に、貴女を守り切った。貴女がみすみす殺されるのを、許せなかった。ただ、それだけの理由で」
冨岡は、一生分の言葉を吐き出した気分だった。火憐にさえ、こんなに思いを伝えた事は無い。
「俺たちの恨みを、貴女は理解出来まい。十八の娘が、血を吐く程の努力をし、刀の腕を磨き上げ、化け物に身体を壊された。それでも、あいつは笑っていた。鬼舞辻に手を差し伸べていた。きっと⋯⋯俺の周りにいた仲間は、誰であれ、例外無くあの娘が好きだった。それ程までに深く愛されていた存在の、尊厳を踏み躙った醜い化け物を、どれ程憎んだか。⋯⋯もし火憐が、貴女の為に殺されていたら、誰も貴女に手を差し伸べ無かっただろう。もし貴女が、火憐の手助けなど必要なかった⋯⋯死にたかったと言うのなら、俺はお前を許さない!!」
痛いほどの沈黙。
そして、麗はその場に崩れ落ちた。
(泣く事も⋯⋯絶望する事も許されない⋯⋯。私は生かされた。多くの人間に恨まれながら⋯⋯)
「⋯⋯書物を、どちらにお送りすれば宜しいですか?」
麗の言葉を聞き、冨岡は住所の書かれた紙を差し出した。
「俺たちは、しばらく各地を周る。鬼狩りの遺族や、支援者たちの元へ。全て産屋敷宛に送ってくれ」
彼が部屋を後にしようとした瞬間、麗は慌てて呼び止めた。
「火憐さんに、お伝えください! ありがとう、と」
「分かった」
冨岡は、短く答え、部屋を出た。廊下に宇那手が蹲っていた。