第99章 最終任務
「火憐さん」
麗は、努めて冷静な声色で、最近書かれた方の日記を開いた。
「青い彼岸花について、書かれています」
宇那手は、弾かれた様に顔を上げ、日記を覗き込んだ。
──累の記憶が蘇った。累が僅かに喰らった竈門炭治郎の血の中に、青い彼岸花の記憶があった。あれは何処なのか。奴の家の近辺か? 彼奴は日の呼吸の剣士と、どの様な繋がりがある? 何故、根絶やしにしたはずの呼吸を、炭焼きの子供が知っている? 火憐を脅せば、何か得られるか? しかし、あの娘がそう簡単に口を割るか? 童磨の恥辱に堪えた娘が。今、あの娘を喰らえば、私は大幅に弱体化するだろう。喰う事は出来ない。
「⋯⋯竈門君に話を聞かないと。青い彼岸花は実在したのね。麗さん、これらの重要な記録を持ち帰っても宜しいでしょうか? 複写した後、必ずお返ししま──」
「全て、処分をお任せします」
麗の顔には言葉で言い表せない程の嫌悪が刻まれていた。
「よくも私の主人を⋯⋯!! 本当に優しかったあの人を殺して⋯⋯平然と!!! まだ歳若い子供を殺そうとしていたなんて!!! あれだけ多くの人に傷を負わせて⋯⋯」
「火憐。外で待っていろ」
冨岡は、宇那手を立ち上がらせると、そっと背中を押した。彼女は顔面蒼白で黙って従った。
冨岡は、麗を見詰めた。泣き崩れている女性は、きっと宇那手が思うほど弱くは無いはずだ。
「先に、もう一度だけ聞く。俺を殺したければ、殺して構わない。それが火憐の望みだ。どうする? 夫の仇が目の前にいる」
「⋯⋯もう嫌。殺す、喰う、根絶やしにするなんて言葉は沢山よ。教えてください。火憐さんは、何が目的で私達に近付いたの? 放っておいてくれれば、私は鬼に襲われた時に、訳も分からず死んでいたか、夫が不慮の事故に巻き込まれたと信じていたはず。何が目的で、私に現実を突き付けたの?」
麗は、口元を押さえながら冨岡を見据えた。彼は腹を括って真実を包み隠さず話すと決めた。