第16章 炎と水の演舞
煉獄は、前に踏み出した。
「肆ノ型、盛炎のうねり!」
「拾壱ノ型、凪!」
宇那手も、すぐに応戦した。彼女の間合いに入った斬撃は全て無効化される。対抗するには、呼吸を使った「技」では無く、物理的な斬撃が必須であった。
「愉快だ! 壱ノ型、不知火!」
煉獄が鋭い突きを放った瞬間、宇那手は、地面を蹴り、上空に逃れた。
「参ノ型、流流舞い。伍ノ型、炎虎!!」
「何?!」
流石の煉獄も刀身を横に構え、受け止める姿勢を取った。水の型の回転に、炎の型の噛み付く様な斬撃は、容易に無効化出来る技では無かった。
(受け止めた?!)
冨岡も驚き、息を呑んだ。こんな戦い方をする剣士は、一人も見た事が無い。一つの呼吸を極めるのも、難しいというのに、十八歳の女が、易々と、二つの呼吸を併せて使用している。
「見事だ!!」
煉獄は、一旦引き下がり、心から称賛した。
「お館様のご意向に、喜んで従おう!」
(だが、判断力はどうだ?!)
煉獄は、宇那手に背を向け、刀を構え直すと、冨岡に向かった。
「弐の型、昇り炎天!」
宇那手は、追撃してこなかった。微動だにせず、煉獄を目で追った。確かに激しい怒りを示してはいたが、彼女は判断した。師範が自分で防ぎ切れる事と、煉獄が冨岡を害すつもりはない事を。実際冨岡は容易に剣を受け止めた。
そして、煉獄は、致命的な誤ちを犯した事に気が付いた。宇那手の間合いの外に出てしまったのだ。
「拾弐ノ型、凪、反転!!!」
「なっ!!」
応戦したものの、煉獄は全身に擦過傷を負った。対して、直ぐ目の前にいる冨岡は、何の呼吸も使用していない。特定の対象のみを攻撃しているのだ。
「最初の一撃は、手を抜いていたのか!!」
怒涛の波の様に、嵐の様に、しつこく付き纏う蜘蛛の糸の様に、細かな斬撃が次々と煉獄に襲い掛かった。