第99章 最終任務
「⋯⋯既に手配してあります。追って連絡しますので」
宇那手は鍵を取り出し、強く握った。鬼舞辻が何を遺したか分からないが、物によっては、人目に触れぬ様、処分しなくてはならないだろう。
薄暗い書斎には、ついさっきまで人がいたかの様に、開きかけの本が散乱していた。
本棚には、薬剤に関する書物ばかりが並べられている。部屋の隅には、黒く変色した血痕があり、宇那手は口を押さえてその場に蹲ってしまった。
「大丈夫か?!」
冨岡は慌ててしゃがんだ。宇那手は、何度か深呼吸し、言葉を絞り出した。
「⋯⋯此処で⋯⋯私は⋯⋯此処で⋯⋯貴方を裏切って⋯⋯」
「もう良い。自分を責めるな」
「火憐さん。これを」
麗が羊皮紙を差し出した。タイプライターを使用した文章が打ち込まれていた。
宇那手は手を伸ばして受け取り、目を通した。日記だった。其処には、鬼舞辻の苦悩が記されていた。
──時折感じる確かな殺意と、例えようも無い、不可解な感情。あの娘は一体何を考えている?
──あの娘の動作は黒死牟をも凌ぐ。即座に抹殺すべきだ。しかし、何故、私は生かしておくのか?
──理解出来ない。何故この機械が、これ程までに私を惹きつけるのか。
「⋯⋯もう少しだった」
宇那手は、涙を浮かべた。
「あと少しで、あの人は愛を理解出来た⋯⋯。もう少し時間があれば⋯⋯」
「炭治郎の話では、鬼舞辻はお前の呼び掛けに応じて手を離したと言っていた」
冨岡は宇那手の背をさすりながら呟いた。
「理解したはずだ。最後の最後に。教えてくれ。お前はどうやって、鬼舞辻にもぎ取られた腕を取り戻した?」
「⋯⋯あの人の最期の願いは⋯⋯私に両腕で抱きしめられる事でした⋯⋯。その為に⋯⋯返してくれた⋯⋯。鬼舞辻無惨は」