第99章 最終任務
「やっぱり鬼が許せない! 一緒に帰りたかった!! 姉さんと一緒に、家に帰りたかった!!! 鬼なんか存在しなければ良かったのに!!! 鬼のためなんかに死んじゃ駄目!!! 家族のために生きて!!!」
「⋯⋯貴女が殺すのは、自分自身では無く、私の夫です」
宇那手は薬を拾い、改めて麗に差し出した。
「失って初めて、私は貴女に寄り添える。理解出来ると言える」
「その瞬間、お前は俺たちの敵になる」
片腕の無い隊士が息を巻いた。宇那手は、溜息を吐いた。
「私は貴方達を取り押さえて、本部へ連れ帰ります。隠が待機しています。五体満足の柱を相手に、戦えると思いますか? 私が貴方達を連れて来たのは、麗さんに道を示すため。起こってしまった事全てを受け入れて、前へ進む道を示すため。出来ないのであれば、この薬を使ってください。罪には問われない様、手配してあります」
「狂っているわ」
麗は目を見開いて、涙を溢した。
「どうしてそんな事が出来るの? 言えるの? 命を懸けて戦って、生き残ったのでしょう? どうして⋯⋯どうして私を助けようとするの?」
「それが鬼殺隊の理念だからです。鬼に幸せを破壊された人を助ける事が、私達の仕事です。貴女には、寄り添ってくれる人間が必要だと思いました。だから──」
「私に、鬼になれと言うの?」
麗の言葉に、宇那手は、頬を叩かれた様な衝撃を受けた。
宇那手は、自身の悪癖を自覚し、俯いた。人は、守り、助けるものという、呪いの様な概念が思考を縛っていたのだ。
しかし、麗は、宇那手が思っているほど弱くは無かった。
「私だって、分かっているわ。苦しくて、辛くて、悲しい。それでも、あの人が私を愛していなかった事は分かりました。貴女への接し方を見ていて、良く分かりました。あの人は、私よりも貴女を愛していた。けれど、それは、生き物に対する愛情では無く、機械や道具に対する感情に近かった。貴女が死にかける程血を飲んでいた。私には、貴女を恨む資格なんて、ありません。これだけ大勢の方の命を脅かした夫の為に、貴女の愛する人を殺すだなんて⋯⋯そんな事が許されるはずがない! 私達を守る為に⋯⋯愛する人がいながら、酷い仕打ちに堪えていた貴女に⋯⋯これ以上の苦痛を与えるなんて、私には出来ません!!」