第99章 最終任務
「のうのうと? あと七年しか生きられないというのに!! 貴女はその短い幸せすら、地獄に変えようとしている!! 見過ごせません!!!」
「七年? どういう意味ですか?」
麗は顔を顰めた。隊士は怒りを抑えきれず、噛み付く様に言葉を発した。
「強い力を持った鬼を殺せる力を身に付けた隊士は、二十五を超えて生きられないんです!! 火憐様は寿命を前借りし、我々を守り、仲間の殆どを失って生き残ったのです!! 貴女が水柱様を殺すと言うのなら、俺は口で刀を咥えて貴女を殺します!! 火憐様! 鬼に肩入れした女に配慮は不要です!!!」
「そう思いますか?」
宇那手は、平坦な声で返した。
「彼女は一番の犠牲者です。鬼舞辻は、魅力的で、優しい男性を演じる事が出来た。鬼と見抜けない人間なら、愛してしまうほどに魅力的だった。それは、私も認めます」
「ですが、貴女は、一番重要な事を黙っていらっしゃる!! そもそも、この女の幸せを破壊したのは──」
「黙りなさい!!」
「貴女の夫を殺したのは鬼舞辻無惨だ!!」
隊士の言葉に、麗は凍りついたが、顔色を変えはしなかった。恐らく薄々気付いていたのだろう。
前夫の突然の死。其処に、偶々現れた魅力的な男性。
「⋯⋯分かっていたわ」
麗は顔を覆った。
「火憐さんから、鬼の話を聞く内に⋯⋯鬼について知る程に、私の中で疑念は大きくなって行った。鬼の始祖しか、鬼を増やす事が出来ないのなら、何故浅草の人混みに、突然鬼が現れたのか。それでも⋯⋯私は」
彼女が薬に手を伸ばした瞬間、何かを察したカナヲが、競技カルタの様な勢いでそれを弾き飛ばした。
カナヲの挙動を見た麗は、目を見開いた。
「貴女も鬼狩りなの? まだ子供なのに⋯⋯。それに、貴女の目⋯⋯」
「駄目。死んじゃ駄目。か⋯⋯家族がいるんでしょう?」
カナヲは手に汗握りながら言葉を紡いだ。
「私の⋯⋯姉さんは、柱だった。鬼舞辻の手下を殺すために⋯⋯大量の毒を呑んで⋯⋯自分を鬼に食わせた。私は⋯⋯それを目の前で見ていた⋯⋯。毒で弱った鬼を殺すためだけに⋯⋯私は目を犠牲にする必要があった⋯⋯。鬼舞辻には、歯が立たなかった。私⋯⋯私⋯⋯」
辛い別れを思い出したのか、カナヲは肩を震わせた。