第16章 炎と水の演舞
広々とした庭に辿り着くと、宇那手は、まず周囲を確認した。煉獄は自分の気配を探って来ない事を不思議に思ったが、敢えて訊ねなかった。本気を受け止めてみたいと思ったのだ。
「宇那手」
唐突に、冨岡が口を開いた。
「俺の事は気にせずやれ。威力が高くとも、呼吸の性質上、俺は防ぎ切れる」
「承知」
宇那手は短く答え、煉獄と向き合った。彼は日輪刀を抜くと、笑みを浮かべた。
「是非、拾弐ノ型とやらを拝ませていただこう!」
「御意」
言うや否や、宇那手は地面を強く蹴り、煉獄から更に間合いを取った。彼は咄嗟にその理由を理解出来なかった。
「水の呼吸拾弐ノ型、凪、反転!!!」
怒涛の津波の様な斬撃が次々と煉獄を襲った。
(威力が増している⋯⋯。いや、型が変化しているのか!)
冨岡も驚嘆した。彼は拾壱ノ型で身を守っていたが、宇那手の斬撃は、まるで蜘蛛の糸の様に細かく掻い潜る事は不可能と言えた。全て振り払うより他にない。
累の血鬼術を見て、それを取り入れたのだ。気のせいかもしれないが、宇那手の刀身が、微妙に不可解な色に輝いて見えた。恐らく蜘蛛の要素を取り入れた事で、蟲の呼吸に通じる部分があったのだろう。
「素晴らしいぞ!」
煉獄は、語気を強めた。流石に柱だけあって、この技一つで膝を折りはしなかった。全て振り払っている。しかし、振り払う事しか出来ていない。
宇那手が編み出した呼吸法は、冨岡独自の型を反転させた物だ。間合いの外⋯⋯尚且つ彼女の触覚、嗅覚、聴覚、視覚の及ぶ範囲にいる敵を切り刻む。その気になれば、特定の相手のみを選んで攻撃する事も可能だ。
この攻撃から逃れる道は一つ。逃走するか、彼女の間合いに自ら飛び込むしか無い。それは大抵の鬼に対して、死を意味する。