第99章 最終任務
宇那手の病室には、連日見舞いの客が訪れていた。冨岡は同室でずっと読書をしていた。
「えっと⋯⋯師範」
その日は、カナヲが訪ねて来た。彼女は宇那手に深々と頭を下げた。
「あの時、守ってくださって、ありがとう御座いました。姉さんのことも⋯⋯」
「本当は、しのぶさんも助けてあげたかった」
宇那手は、少し目を伏せた。
「でも、私が駆け付けた時には、既に氷粉を吸って、肺が壊死していたの。ざっくり深い傷があって、どうやっても助けられないと分かったから⋯⋯しのぶさんの望みを叶える手伝いをすると決めたわ。痛みは感じなかったはず。物凄く強い薬を使ったから。ごめんね⋯⋯。今にして思えば、私なら頸を斬れた。鬼舞辻の攻撃を掻い潜れたのだから」
「だけど⋯⋯そうしていたら、炭治郎と水柱様は助かりませんでした。風柱様たちも。それに⋯⋯」
話慣れていないカナヲは懸命に言葉を探した。宇那手は、ゆったりとした表情で続きを待った。
「ね⋯⋯姉さんを、鬼舞辻無惨との戦いの場に連れて行ってくださって、ありがとう御座いました。私⋯⋯少しも冷静じゃなくて⋯⋯ただ⋯⋯髪飾りを探す事しか出来なかった。自分のために⋯⋯」
「そういえば、貴女はしのぶさんと同じくらいの髪の長さね。ちょっと後ろを向いてくれる?」
「はい!」
カナヲは宇那手に背を向けた。宇那手は、カナヲの髪飾りを外し、髪の毛を丁寧に梳かした。
「凄く綺麗な黒髪ね。手入れはどうしているの?」
「姉さんが⋯⋯何時も香油をくれたので⋯⋯」
「そっかー。私も椿油を使っているんだけど、ちょっと毛先が傷んでいるのよね。少し切ろうかしら?」
宇那手は、試すつもりで問い掛けた。カナヲは自分に関する問いには答えられる様になったが、他人に意見する事は出来るだろうか? と。
「⋯⋯少し⋯⋯少しなら、良いと思います」
カナヲはぎこちなく答えた。
「私は、長い方が好きです。貴女が守ってくれた時⋯⋯カナエ姉さんと、しのぶ姉さんの後ろ姿が見えた⋯⋯。あの時⋯⋯貴女の事が好きになった。守りたいと思った。犠牲にしたくないと思えました。最後まで戦えたのは、貴女のお陰です」