第98章 継ぐ子の役割
「だろうな。不死川と話がついたと聞いた。そのお陰で遠慮が無くなったんだろう」
「戻って、あいつと話をする」
冨岡は踵を返した。今、きちんと向き合わなければ、宇那手と良好な関係を築く事は難しくなると分かっていたからだ。
彼は病室に戻ると、頭まで布団を被っている宇那手に呼び掛けた。
「火憐、話がある」
返事は無かった。冨岡は苛立ちと怒りを押し殺しながら、布団を奪い取った。
「お前が、わざとそういう態度を取っている事は分かっている。別にそうしたければ、それで構わない。だが、数分だけ話を聞いてくれ」
「⋯⋯放っておいてください」
宇那手は、耳を両手で覆ってしまった。
「良い加減にしろ!!」
冨岡は遂に堪忍袋の緒が切れて怒鳴ってしまった。無理矢理腕を掴んで、顔を鷲掴みにし、自分の方を向かせた。
「俺に甘えるのは構わない!! だが、自分に甘えるのはよせ!! 俺も、お前も、同じだ。何時迄生きられるか分からない!! ⋯⋯くそ!!」
彼は自分の語彙力の無さに反吐が出る思いだった。それでも、伝えなければならない。残された時間が僅かなら、尚更。
「同じだ!! 俺もお前も、他の隊士も、皆同じ傷を抱えている!! 胡蝶の継子もだ!! 生き方を変える事は出来ても、これまでして来た事が、消える事は無い!! 人の形をした化けの物の頸を刎ね、血を浴びて生き延びて来た!! お前だけじゃない!!! 生き残った者は、皆同じ苦しみを抱えている!! それでも、世間の当たり前に順応して生きて行くしかないんだ!!! だから⋯⋯お前も──」
「傷を負う場所が違うんです! 貴方なら分かると思っていた⋯⋯」
宇那手は、体を起こして真っ直ぐ冨岡を見据えた。彼女は、極めて真剣で、冷静な瞳をしていた。