第98章 継ぐ子の役割
「冨岡から、薬が効かずに叫んでいたと聞いたが」
「少し、戸惑っていただけです!! 今は落ち着いています!! ⋯⋯お恥ずかしい限りです」
宇那手は、頬を真っ赤に染めて俯いた。愈史郎は、僅かに口元を緩めた。
「そうか。それなら行くが、何か必要な物はあるか? お前の場合、ここの薬よりも、自分で用意した物の方が効くだろう」
「そうですね⋯⋯」
宇那手は、深妙な面持ちで思案した。剣士の顔をしていた。
「NSAIDs系統の薬が手に入れば、それを譲って頂きたいです。勿論薬代は支払います。モルヒネは、私にも効果がありましたが、良い噂を聞きません。常用するには躊躇いがありますので⋯⋯」
「また、面倒な注文だな」
愈史郎は大きく溜息を吐いた。国外からの経路を頼るしかないが、鬼舞辻が経営に深く関わっていた貿易会社は、大混乱に陥っている。
「分かった。何とかする。今は、アスピリンで良いか?」
「不要です。これまで過剰摂取をして来ましたから、腫瘍が出来る可能性が高い。堪えます」
「無理はするな。それから、少し冨岡を借りて行くが、問題ないか?」
「はい。私は休みますので、竈門君の傍にいてください」
宇那手は大人しく目を閉じた。愈史郎は冨岡に目配せし、二人は部屋を出た。
「火憐は、取り乱している様に見えたか?」
愈史郎の問いに、冨岡は困った様子で俯いた。
「いや。何時も通りだ。数分で落ち着く様な薬があるのか?」
「無い。少なくとも、そんな物は危険過ぎて、飲ませられない。原因はお前だ」
「は?」
「お前に甘えている。あいつの気質からして、厳しく止めろと命じれば、止めるはずだ。これまでの様に、大人しくなるだろう。見せ掛けは、冷静な大人に戻るはずだ。ただ俺としては、このまま放っておいても、数ヶ月で治ると思う。どうする?」
「⋯⋯つまり、体調不良とは、何の関係も無いという事か?」