第98章 継ぐ子の役割
「横になれ」
冨岡は、薬が効いている事を確信して、命じた。宇那手は大人しく従い、やがて、ゆっくりと瞼を閉じた。
「ごめん⋯⋯なさい⋯⋯。何か⋯⋯私⋯⋯」
そのまま、すーっと寝息を立て始めた。
冨岡は布団を掛けてやりながら、真顔で背中に汗を掻いていた。
(これが毎月続くのか?! ⋯⋯いや、女は大抵良く泣くし、甲高い声で喚く。コイツはマシな方だ。しかし、こんな状態では⋯⋯)
「寿命が縮みそうだな」
何時の間にか、愈史郎が部屋にやって来た。もう夕暮れを過ぎていたのだ。
「安心しろ。久々の事で混乱しているんだろう。肺の損傷も、まだ完全には癒えていない。数ヶ月もすれば、落ち着くはずだ」
彼はツカツカとベッドに歩み寄り、布団を引き剥がした。そして、宇那手の上半身を丹念に観察した。
「⋯⋯信じられないな。傷が無い」
身体を転がされても、宇那手は眠ったままだった。
「鬼用の麻酔を使ったんだが、ようやく効いた感じか。これは、お産の時に苦労するぞ。双子や逆子なら、痛みで意識を失い、命に関わるかもしれない。その覚悟は持っておけ」
愈史郎は雑に布団を掛け直し、冨岡と向き合う形で椅子に掛けた。
「こいつの事を話しておきたかった。一先ず容体は安定した。機能も戻った。普通に生活する分には、何の問題も無い。だが──」
「俺は、こいつのしたい様にさせる。どんな結果になろうと。隊律に縛られ、鞭で打たれる様に従わされて来たこいつに、もう、何かを強要する気は無い。ただ⋯⋯これは一体何時まで続く? まるで聞き分けの悪い子供と会話をしている様だ」
「少し試してみるか?」
愈史郎は、宇那手の頬をペシペシ叩いた。彼女はぼんやりと目を開け、それから慌てて跳ね起きた。
「ごめんなさい!! アオイさんが呼んだのでしょう?! 私は何ともありませんから、竈門君を診てあげてください」