第98章 継ぐ子の役割
「ああ、お前が許せない。愛しているからこそ、許せない!! 火憐、勘違いするな。俺の方が先だ。お前が鬼に身体を売るより先に、俺はお前を愛していた。引き返せない程に。そうなる様に仕向けたのは、お前だろう?! 見返りを求めず、俺を愛してくれた!! それなのにお前は、俺がお前を愛した瞬間、鬼の手に堕ちた!! だから、これは罰だ」
「⋯⋯罰?」
「もう鬼はいない。何者も、お前を従わせる事は出来ない。自由になれたと思ったか? 残念だったな。お前は死ぬまで俺の”物”だ。呼吸が使えないのなら、捩じ伏せるのは容易い。”命令”だ。気が済むまで泣け! そうでなければ、お前がどうなっていようと、今、此処で貫いてやる」
「⋯⋯」
宇那手は、冨岡の顔に魅入った。言葉は乱暴で、思い遣りのカケラも無い物だったが、苦痛に顔を歪めていたのだ。
(なんて、優しい人だろう⋯⋯。悪いのは私なのに⋯⋯。勝手に苛立って、不安になって、子供の様に逆らってしまったのに⋯⋯)
「⋯⋯義勇さん」
彼女は、冨岡の両肩を掴み、その手に力を込めた。
「私の⋯⋯さらしを取ってください。其処にある鋏で切ってしまっても構いません。もう⋯⋯必要ありませんから」
「お前⋯⋯」
冨岡は、改めて宇那手の胸元に目をやり、かなりキツく押さえ付けている事に気が付いた。何度か裸を見ていたが、宇那手の胸は、上背がほぼ同じ胡蝶が服を着ている状態と比べても小ぶりだった。
それが悪い事だと思った事は無かったが。しかし、宇那手は、身体の発育を抑えていたのだ。動作に支障が無い様に。
さらしは、彼女の生き方を縛って来た、鎖の一つだった。
「取ってやりたいが、お前の身体に刃物向けるのは、もう嫌だ」
冨岡は、宇那手が目覚めるまでの、悪夢の様な時間を思い返した。もし、自分が見張りをしている時に、彼女が目覚め、鬼になっていた場合の事を考えると吐き気がした。
「俺は、鬼を狩っている時よりも、お前の首筋に、お前の刀を当て続けた時間の方が地獄だった」
「⋯⋯ごめんなさい」
宇那手は、自分で上半身を起こし、縛っていたさらしを取り払った。そして、ぼんやりとした表情で冨岡を見上げた。
「好きにしてください。どんな罰でも受けます」