第98章 継ぐ子の役割
「気にしないでください。教わっていなければ、知らなくて当然です。取り敢えず着替えを用意しました。早く着替えて、一週間、安静にしていてください」
アオイはさっさと仕事を片付け、部屋を後にした。宇那手は、深呼吸してベッドに横たわった。
(こんな状態じゃ、とても戦えない⋯⋯。ずっと壊れていて良かった)
気が緩んだせいか、痛みと涙が両方いっぺんに襲って来た。
(私⋯⋯生きて行けるの? こんな当たり前の事も分からないのに⋯⋯。鬼に関する薬の知識なんて、もう誰にも必要とされない。体力も落ちて、男の人と同じ様には働けない⋯⋯。そもそも、女性が、男性と同じ待遇で働ける場所なんて無い)
ポロポロと溢れる涙を止められずにいると、唐突に体の上に手を置かれた。
「⋯⋯冨岡さん」
「火憐、辛いのか?」
「不安です。不安で堪らない⋯⋯」
「何が?」
「普通が⋯⋯分からないんです。普通の人間なら、知っていて当然の事が分からない。この先刀を振るう事はありませんし、私、貴方のお役に立てるかどうか⋯⋯」
「⋯⋯ちょっと待ってくれ」
冨岡は辟易した。溜息を吐けば、宇那手が大泣きし出しそうな様子だったので、何とか飲み込んだが。
(少し繊細になっている、だと? 少し?!)
「まず、普通である必要が無い。俺も普通ではないからな」
「義勇さんは、普通です。普通の感覚を持っています。普通の人が怒る時に怒り、共感出来る人です。でも私は──」
「それにお前は、料理が出来る。家事も。俺には出来ない事が出来る」
「駄目なんです!! 私は、きっと、貴方が望む様には振る舞えない!! 不満を抱いてしまう!! 一日中家にいて、掃除をして、食事を作るだけの生活に耐えられない!! ⋯⋯私⋯⋯私、おかしいですよね?!」
「⋯⋯都会へ出れば、お前でも仕事を見つけられる。お前が望む様な職があるだろう」
「でも貴方は静かな場所で──」
「お前がいれば、それで良い!! 落ち着け、火憐。薬は飲んだのか?!」