第98章 継ぐ子の役割
すると、冨岡は手を振り上げて、宇那手を叩こうとした。宇那手は、そんな彼をじっと見詰めた。
冨岡は、宇那手を叩く事が出来なかった。
「良かったです。貴方が無闇に暴力を振るう方なら、私は幻滅していました」
「少しは自覚を持て!」
冨岡は、宇那手に迫った。
「お前は器量が良い。下心を持って接してくる輩もいるだろう!! もし⋯⋯もし、不貞行為を働けば、俺は許せない!! 何故不死川を抱き締めていた?!」
「慰めが必要だと感じたからです。お別れの意味を込めて、抱擁しました。貴方が懸念している様な感情はありません」
「良いか! お前は俺の嫁だ!! 目移りは許さな⋯⋯火憐?! 熱があるぞ!!」
「時期的な物なので⋯⋯あ⋯⋯」
宇那手は、嫌な感覚を味わい、冨岡から距離を取った。
(嘘⋯⋯。どうして? こんなに早く⋯⋯)
「お二人共、出て行ってください。アオイさんを呼んで来て!」
「分かった」
こういう時に、理由を聞かずに行動してくれるのは、流石冨岡だ。宇那手が人を呼ぶ時は、何時もよっぽどの理由がある。後から聞けば良い。
「実弥さんも、出て行ってください」
宇那手は、少し強い口調で言い、二人の男を部屋から追い出した。
(ど⋯⋯どうしよう、私。こんな当たり前の事も分からないなんて⋯⋯)
宇那手は、羞恥心に押し潰されそうになった。
「火憐さん!」
アオイはすぐにやって来た。
「どうしました?! 体調不良ですか?!」
「⋯⋯あの⋯⋯薬の効果が出たみたいで⋯⋯。わ⋯⋯私⋯⋯どうして良いか⋯⋯」
「分かりました。取り敢えずそのままお待ちください。他に身体症状は? 頭痛や吐き気はありませんか?」
「少し⋯⋯怠いです」
「お待ちくださいね」
アオイは素早く立ち去り、諸々の道具を持って戻って来た。宇那手は、恥ずかしさのあまり、赤面した。
「ごめんなさい。私⋯⋯当たり前の事が、何一つ分からないの。母も、多分私が戦うことを望んでいなかったから⋯⋯背が伸びない様に⋯⋯体躯に恵まれない様に、食事を抑えていて⋯⋯。ほんの一年しか経験していなかった。それも、不規則だったから、なんとなく対処していただけで──」