第98章 継ぐ子の役割
「悪ィ。それは、俺が話すべき事だ。⋯⋯俺の事は良い。俺のせいで、苦しませた。お前にとって、正しい選択をしてくれ。俺も⋯⋯お前の事が好きだから⋯⋯幸せになって欲しい。後ろめたいなんて思うな。冨岡と一緒になれ」
「⋯⋯ありがとう、実弥さん」
宇那手は、ほっとした表情で微笑した。
「少しお待ちください。⋯⋯よし」
彼女は白地に花の刺繍が施された守り袋を仕上げた。
「以前、貴方に藤のお守りをお渡ししましたよね?」
「ああ⋯⋯。これか」
不死川は、黒く染まった守り袋を取り出した。玄弥の髪が、血の海に沈んでいたせいで、変色してしまったのだ。一応洗ったが、布地は綺麗にならなかった。
「あの時も、ありがとうなァ。お前だって、辛かったろうに⋯⋯時透も、玄弥も救ってくれた」
「まだ、救えていない人がいます。貴方にこれを」
宇那手は、出来たばかりの守り袋を差し出した。
「カナエさんの羽織を頂いて、作りました。これは、貴方だけのために作った物です。貴方が心から愛した人と、共に歩める様に」
「⋯⋯お前は」
不死川は、両手でそれを受け取り、言葉を失った。
(違う。ちゃんと伝えねェと。また後悔する)
「火憐」
不死川は、宇那手の首に抱き付いた。
「傷の手当てをしてくれた時、カナエに似ていると思った。だけど俺は⋯⋯お前自身が好きなんだ! 一生懸命なお前が!! どんなに打ちのめされても、必死に冨岡の後を追い、追い越し、誰でも愛する事が出来るお前が!」
「うん」
「好きだァ! このまま離したくねェ!!」
「ごめんなさい」
宇那手は、不死川の背に腕を回した。
「ごめんなさい。ありがとう」
「おい、何をしている?!」
戸口に現れた冨岡が、あからさまに不愉快そうな顔をして不死川に歩み寄ると、髪を鷲掴みにし、有無を言わさず顔を殴った。
「義勇さん!!」
宇那手が止めに入ろうとしたが、不死川も黙ってはいなかった。彼は冨岡を殴り返すと、笑みを浮かべた。
「気が済んだか? 俺は済まねェ!! その顔が崩れるくらい殴ってやりてェよ!!」
「やめて!!」
宇那手は、二人の間に割って入り、冨岡の腕を掴んだ。
「どうしてすぐに暴力を振るうんですか?!」