第16章 炎と水の演舞
朝。
宇那手は、何時にも増して元気だった。出された食事は全て食べ、いくつか渡された羽織の中から、一番しっくり来る物を纏った。
出立の時も。彼女は高揚していた。戦う事自体に喜びを感じている。
無理もない。その辺の鬼では、木や岩を斬るのと同等の手応えしか得られないのだから。冨岡自身が稽古をつけても、彼女は必ず技の威力を制御している。
走っている途中、一羽の鴉が宇那手の頭に舞い降りた。
「宇那手火憐! 鍛錬が終わり次第、産屋敷邸へ迎え!」
「承知しました、と伝えて」
宇那手が返すと、鴉はすぐに飛び立った。余計な口を利かない、良い鴉だが、恐らく年寄りだ。
「忙しいな」
冨岡は、気の毒そうに呟いた。
「帰りは馬を使うか」
「走った方が早いです」
宇那手は即答した。冨岡は彼女を横目に見た。
「無茶をするな。煉獄は確実に俺より強い。退けと言ったら、従え」
「はい!」
そうして、二人は昼前に煉獄の屋敷へ辿り着いた。先に冨岡が敷地に踏み入ると、すぐに煉獄本人が姿を現した。
「待っていたぞ、天才!」
彼は遠慮なく宇那手の肩をバシバシ叩いた。
「お館様からの伝言も授かった。不死川や甘露寺、胡蝶の意向も聞いたが、俺は今日の訓練の結果を見て、判断しよう! 少し休んでからにするか?」
「いえ。すぐに始めていただいて、問題ありません」
宇那手は、走り続けたにも拘らず、息を乱さずに答えた。
「では、庭に来なさい!」
煉獄の言葉に従い、宇那手は彼の背中を追った。冨岡よりも背が高い。急所の位置が異なる。移動の間に、感覚を掴んでおきたかった。
対する煉獄の方も、異常な空気を感じ取っていた。殺気にも近い、本気を感じた。宇那手の背丈は、胡蝶よりもやや高い程度。そして痩せ気味。しかし、鬼の首を斬り落とせる程度の腕力は持っているのだ。
甘露寺と同じ類の怪力かとも思ったが、身体の密度はそれ程高くない。しかし、全集中常中を身に付けているとはいえ、心拍数が異常であった。となると、彼女の強さの理由は、呼吸だ。