第2章 柱合会議
「はい。今は、私も師範の側を離れたくありません。何かに動揺されている様子ですので」
お前のせいだ! と全員が心の中で突っ込んだ。
しかし、宇那手は大真面目に、産屋敷に頭を下げた。
「先程、鬼の娘の件で、万が一があれば、師範が切腹するとおっしゃりました。ですが、鬼を倒す上で、柱は必要不可欠な存在。簡単に失うわけには参りません。現状、私は経験不足であり、到底師範に及びません。私が代わりに腹を切ります」
「その必要は認めないと、何度も言ったはずだ」
冨岡は、怒りを込めて返した。
「継子の役割は、生きて柱の跡を継ぐことだ。代わりに死ぬ事では無い」
「ですが、どれほど技術を研鑽しようと、経験という点に於いて、私は貴方に追いつけません! 貴方の命が危うい状態なら、代わります。安心して任務に邁進出来るよう、務めます」
「火憐──」
冨岡が口を挟もうとした時、産屋敷は沈黙を促した。
「良い子を見つけたね。私は経験不足とは思えない。何故、那田蜘蛛山の戦いに連れて行かなかったのかな? しのぶは、カナヲを連れて行った」
「⋯⋯」
冨岡は答えられなかった。素直に言うならば、十二鬼月がいたからだ。自分か胡蝶が相手をすると決めてはいたが、血を分けられた群れがいると聞いていた。万が一にも宇那手を失いたくなかったかたらだ。
しかし、宇那手は、鴉の声に導かれ、森の異様な雰囲気を察知し、後を追って来てしまった。そして、彼女は、隊律よりも師範の声に従った。一時的にとはいえ、胡蝶しのぶを取り押さえたのだ。
「継子を可愛がる気持ちは分かる。けれど、彼女は自分の意思で鬼を殺すと決めた、隊士だ。経験を積ませてあげなさい。無理な任務に就かせたわけでは無いよ。火憐は、乗り越えられる可能性が高いと判断したから任務に当たらせたんだ」
「⋯⋯はい」
冨岡は、表情を変えずに頭を深く下げた。産屋敷は、再び、宇那手へ顔を向けた。
「わざわざ呼び付けてすまなかったね。さがって良いよ」
「はい。⋯⋯師範、私は何処でお待ちしていれば良いでしょうか?」
「屋敷に戻っていろ」
「かしこまりました」
宇那手は、瞬く間に姿を消した。産屋敷は、優しく冨岡へ向き直った。