第98章 継ぐ子の役割
「⋯⋯っ」
アオイは怒りに肩を震わせた。彼女は禰󠄀豆子に視線を向け、意識して声を落ち着かせた。
「ちょっと良いですか?」
「は⋯⋯はい!」
禰󠄀豆子はあたふたしながら、アオイの背を追った。部屋を出たところで、アオイは足を止めた。
「⋯⋯火憐さん、ずっと何か悩んでいる様子なんです。知りませんか?」
「えっと⋯⋯うーん⋯⋯」
「あの方は、気遣いの出来る人です。冨岡さんにお金を渡しても、絶対自分の分は手を付けないと分かっているはず。それなのに、押し付けたんです。食事も最低限。衣類の注文も無い。まるで自分を罰している様な気がしてなりません。何か、心当たりはありませんか?」
「⋯⋯風柱の⋯⋯不死川さんって方の事かもしれない」
禰󠄀豆子は、眉間に皺を寄せた。
「火憐さん、あの人と話す時は、何時も緊張してるっていうか⋯⋯凄く配慮をしている気がします。今日だって、義勇さんを家に帰してしまって。本当は一緒にいたいと思っているのに、我慢している⋯⋯」
「あー⋯⋯」
アオイは思わず溜息を吐いてしまった。
「あの方ですか。一度しっかり話し合われた方が──」
言っている傍から、本人が現れた。
「おい、冨岡はどうしてる?」
「冨岡さんは家に戻られました。火憐さんの継子達の行き先がまだ決まっていないので、忙しい様です」
アオイはかなりキツい口調で答えていた。
「火憐さんに、何か言いました? 彼女、何か悩んで──」
「実弥さん。どうぞ」
部屋の中から、宇那手の落ち着いた声が聞こえた。
「貴方を待っていました。少し、お話をしましょう。座ってください」
「体調はどうだァ?」
「元気です。⋯⋯今日は、貴方にお話ししなければいけない事があって。⋯⋯玄弥君の遺書のことです」
宇那手は、裁縫を続けながら、静かな口調で続けた。
「貴方を幸せにして欲しいと書かれていました。私も、貴方の想いを理解しています。ずっと、どうするべきか考えていました。だけど、どれだけ悩んで、苦しんでも、正しい選択が出来ない。答えは明白なのに、選べない。私は──」