第98章 継ぐ子の役割
「大丈夫。鬼になった子達も、貴女と自分の違いを理解しています。人を喰ったかどうか。他人の幸せを破壊したかどうか。貴女は多くの人を守った。とりわけ、無限列車では、沢山の乗客を守り切った。立派です」
「やっぱり、火憐さんは凄いなー! 貴女の声を聞いていると安心するんです!」
「⋯⋯声ではなく、言葉を聞いて欲しい」
宇那手は、苦笑未満の表情を返した。
「言葉と、その裏にある想いを汲み取って欲しい。私は、声にそれ程意味があると思っていません。大切なのは、心です。私も、人と話す際は気を付けます」
「あ⋯⋯ごめんなさい」
「謝らないで。私の問題だから。産屋敷の人間は、特別な声を持っているの。鬼舞辻無惨もそうだった。巧みに言葉と声色を操り、人や鬼を制御してきた。それが、悪い事だとは言い切れないけれど、私は少しの嫌悪を覚える。でもね」
宇那手は、ハッキリと笑みを浮かべた。
「人は生まれを選べないの。どんなに嫌でも、受け入れて生きて行くしかない。貴女は、どう生きたい? 炭焼きの家の娘として。都会では、もうガス灯が使われている。何れ、炭は必要の無い時代が来るわ。勿論、お兄さんの鬼殺のお給料で、働かなくても生きて行けるでしょうが⋯⋯」
「私は、その時に任せます」
禰󠄀豆子はニコッと笑った。
「炭が必要とされている間は、炭を。他の何かを、誰かが必要としていて、それを私が用意出来るなら、それを」
当たり前の様に答える彼女が、宇那手は少し羨ましかった。
「火憐さん」
アオイが部屋に入って来た。
「カナエ様の羽織をお持ちしました。裁縫箱も」
「ありがとう」
「⋯⋯実はしのぶ様が、遺品の半分は火憐さんにお渡しする様に書き遺して逝かれました。私達には、家族の印である髪飾りがあります。必要な分だけ持って行ってください」
「気持ちだけいただきます。⋯⋯そうですね⋯⋯。こちらの羽織をお譲りいただきます」
宇那手は、白地に花の刺繍が施された物を選び取った。
「あとは、お返ししますね」
「火憐さん、冨岡さんも心配していました。貴女がまともな服を一着も持っていないと」
「でも、この布は特別な物だから、仕立て直して、貴女やカナヲに着て貰いたいの」