第97章 答え合わせ
「火憐」
入り口に、輝利哉が立っていた。隊士の見舞いに来ていた彼は、宇那手が意識を取り戻した事を聞くなり、駆け付けて来たのだ。
「私は幸せでした。父上と過ごした時間は、短くとも、幸せな物でした。もう、気負わないで欲しい。痣の出た隊士の未来は、私たちが責任を持ちます。貴女はしたい様にしてください。幸せになってください」
「⋯⋯幸せに⋯⋯」
「貴女は、誰よりも、人の幸福を願う事の出来る人だと知っています」
輝利哉は、ベッドに歩み寄り、宇那手の手を握った。
「貴女が戦いの場で、尚、危険を冒してまで鬼舞辻無惨に手を差し伸べた事を聞きました。私は早く塵になれと叫んでいたのに。だから、腕を取り戻せたのでしょう? 人の幸せを願える人は、誰より幸せになれる。貴女と接した者は、誰であれ、生きる事を愛せるはずです。どんなに苦しくとも、前を向いて歩けるはずです。だから」
彼は父親に良く似た、穏やかな声で訴えた。
「早く身体を治しましょう。肺も、治る様です。きっと、貴女は長生き出来ます」
「ありがとう⋯⋯ございます」
宇那手は、礼を言い、押し黙った。両親を亡くして間もない子供に気を使わせてしまった事が、ただ申し訳なかった。しかし、謝れば謝るほど、輝利哉は責任を感じてしまうだろう。
「おい、俺は何時から配膳係になったんだ」
不平を言いながらも、粥の入った器を愈史郎が持って来た。彼はそれを冨岡に手渡すと、宇那手と向き合った。
「お前は治るよ。あれだけ無理をしていたのに、不死川や冨岡よりも、身体の状態が良い。お前だけは、俺が必ず治療する。珠世様が幾つも薬を残してくださった。今すぐには使えない。体力が回復してからだ。⋯⋯食べる前に熱を計ってくれ」
彼は体温計を差し出すと、輝利哉を押し退けて椅子に座った。