第97章 答え合わせ
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想定外の状態になった宇那手は、蝶屋敷の、冨岡、不死川と同室に運ばれた。
室内には宇髄、槇寿郎も待機していた。手当を受けながらも、宇那手の首には、常に誰かの日輪刀が押し当てられていた。
「コイツが意識を取り戻して、もし鬼になっていた時、出来る事が幾つかある」
愈史郎は、意識して冷静に言葉を紡いだ。
「まず、禰󠄀豆子の血を飲ませる。その上で、人間に戻すための薬を打つ。その時間を稼いでくれ。もし、それで元に戻らなければ、生き残った隊士から採血しておいた血を飲ませる。運が良ければ自我を取り戻せるだろう。だが、そうなれば、冨岡。人間のお前の傍には置けない。俺が引き受ける。珠世様も火憐なら、許してくれるだろう。⋯⋯人間にも戻らず、自我も取り戻さなかった場合、殺す手段がない。まず、菖蒲を使った毒で、極限まで火憐を弱らせる。菖蒲の毒は、無惨ですら、あの一度しか喰らった事がない。ある程度効くはずだ。そのあと、四肢を捥ぐなり、首を斬るなりして拘束し、陽光山に隔離しろ。定期的に攻撃を加えて、弱らせる。山の管理は産屋敷にやらせろ。現実的に考えて、それしか手段が浮かばない。他に何か案があるか?」
誰も口を開かなかった。
「安心しろ。コイツの気配は間違いなく人間だ。何か、奇跡が起こったと思った方が良い。恐らく、身体が弱っている筈だ。誰が生涯添い遂げるか、相談しておけ」
愈史郎は、そう言うと、他の隊士の治療のため、部屋を出て行った。
「⋯⋯俺はやめとくわ。嫁、三人いるし。コイツはうんと抱きたいが、体力が保たなそうだしな。餓鬼を産む時に死なれても辛い」
宇髄は真っ先に辞退した。続いて槇寿郎も。
「俺が手を出しては、犯罪を疑われる」
彼は、頭を掻いた。
「それに、以前、卒倒する程拒絶されたしな」
「俺は退かない。殺す事になっても、支えて生きる事になっても、添い遂げると誓った」
冨岡は、横になったまま、宇那手に顔を向けた。
不死川は、黙っていた。答えを出さなかった。出せなかった。叶う事ならば、自分が傍にいたかった。全身傷だらけの自分を理解してくれる女性など、今後二度と現れないだろうと思った。
しかし、宇那手の意思はどうだろうか? 分かりきった事だ。彼女は最初から冨岡を妄愛していた。