第97章 答え合わせ
「⋯⋯」
鬼舞辻は、初めて、どれ程の者達に死を願われ、恨まれていたのか実感した。その中で、まだ自分を助けようとしている、無力な腕が哀れで堪らなかった。
ほんのひと時の、気の迷いだったのかもしれない。抱き締めてくれる腕が、両腕であれば、もっと満たされるのではないかと思った。
「⋯⋯返して⋯⋯くれるの?」
宇那手は、右腕に感覚が戻ることに驚いた。
「どうして?」
「⋯⋯強く、抱き締めて欲しい」
鬼の始祖、鬼舞辻の最期の望みは、ありふれた物だった。宇那手は、救えなかった鬼を、きつく抱き締めた。
「ごめんなさい! ⋯⋯ごめん⋯⋯なさい⋯⋯。助けたかった!! でも⋯⋯」
宇那手は、背を無数の手に引っ張られるのを感じた。
「火憐さん、ありがとう。さようなら」
珠世の声が優しくこだました。
鬼舞辻や、産屋敷、鬼だった人々の姿が遠ざかって行く。
そして、気が付くと、明るい場所にいた。懐かしい人々が笑顔で佇んでいる。その中に、ただ一人、浮かない顔をした女性がいた。
「火憐⋯⋯」
「お母さん」
宇那手は、どう接して良いのか分からなかった。
華は宇那手の両肩を掴んで、泣いて詫びた。
「ごめんね!! 全部私のせいよ!! でも⋯⋯私は⋯⋯貴女を同じ目に遭わせたくなかった!! 普通の女の子として、生きて、死んで欲しかった!! ただ、それだけなの!! 幸せに生きられるのなら、生きて欲しい⋯⋯。心から、そう思っているわ」
「何があったの? お母さんの人生に、何があったの?」
「⋯⋯母さんは生まれ付き身体が丈夫だった。普通の男の人よりもずっと。だから、色んなことが出来た。早くに亡くなった父の分も、仕事をこなせた。重い荷物も持てた。だけど、そういう女性は普通じゃないと思われるの。⋯⋯化け物だと噂が立った。私と結婚したいという人は、誰もいなかったのよ。偶々⋯⋯本当に偶々、お父さんと出会うまで。だけど、それさえ仕組まれた事の様で⋯⋯」
「姉さん!!」
時透が無邪気な笑顔で宇那手に抱き付いた。華は顔を伏せた。
「⋯⋯あの人は⋯⋯あの人の祖父は、杣夫だったと聞いて⋯⋯それで⋯⋯一度だけ縁者を訪ねたら──」