第96章 理不尽
「無惨!!」
宇那手は、技を出しながら訴えた。
「諦めて!! もう終わりにして!!」
「火憐、何を──」
「心から、愛おしいと思ったの!!」
伊黒の声を遮り、宇那手は声を振り絞った。
「貴方がぎこちなく、タイプライターを使う姿が、堪らなく愛おしかった!! 普通の人間に見えた!! 私は貴方と死んでも良い!! 私は貴方を恨まない!! 私が先に貴方を裏切った!! お願い」
彼女は、馬鹿正直に鬼舞辻の正面に降り立っていた。動ける隊士全員が緊張し、その様子を見守っていた。
「一緒に死のう、鬼舞辻無惨。地獄へ行こう。ただ生きたかっただけの貴方が、こんなにも憎まれている事が辛い。一緒に絵本を読んだ貴方が、これ以上罪を重ねない様⋯⋯一緒に死のう?」
「黙れ! この異常者が!!」
「⋯⋯そう」
宇那手は小さく呟いた。そして、地面を強く蹴った。鬼舞辻は、今この瞬間、生き残っている全ての隊士の、更なる憎悪をかった事に気付いていない。
炭治郎は、三の合図を出した。宇那手は、それに応じた。
(貴方が後悔するには、時間が無さ過ぎた)
しかし、彼女は鬼舞辻の心の揺らぎを感じ取っていた。一分一秒でも早く、逃走したいであろう彼が、攻撃をやめて耳を傾けたのだ。
「⋯⋯っあ」
宇那手は、失血による眩暈と、痛み止めの効力が弱まった事、肺の限界により、血を吐いて倒れた。唐突な限界だった。
彼女は、不調を隠す力を失っていた。顔面は蒼白で、脈は狂い、薬の副作用による痺れにもがいた。それでも、声を張り上げた。
「竈門君を守って!! 鬼舞辻を逃がさない⋯⋯ぐっあ!」
宇那手は、吐血し気道を塞がれた。慌てて横向きになったが、もう身体が動かなかった。