第96章 理不尽
「下がれ!!!」
宇那手は、反射的に叫んでいた。そして、冨岡の首根っこを掴み、逃したせいで、真正面から衝撃波を喰らった。
(⋯⋯駄目だ⋯⋯。死ぬ)
全身の神経が痙攣していた。何とか目だけを動かすと、炭治郎の方は伊黒が守り切っていた。しかし、そのせいで伊黒が動けなくなっていた。
直撃を逃れた猪之助と、善逸が何とか技を出し、時間を稼いでいる。
(また⋯⋯救われた⋯⋯)
冨岡は、根性で這い、宇那手に近付いた。
「⋯⋯火憐⋯⋯戦え! 生きて戦え!!」
彼は的確に急所を避け、宇那手の肩を刺した。彼女はしばらく呼吸を荒げていたが、何とか立ち上がる事が出来た。意識は朦朧としている。
猪之助の声が、天を貫いた。
「俺たちを庇って、数珠のオッサンの足と、簪女の腕が千切れた。あっちこっちに転がっている死体は、一緒に飯を食った仲間だ。⋯⋯返せよ! 足も手も、命も全部返せ!! それができないなら、百万回死んで償え!!」
(何だろう。⋯⋯なんて悲しい状況⋯⋯)
宇那手は、泣きたくなるのを堪えた。この場にいる全員が、殺意を以って鬼舞辻と対峙している。
たった一人の、かつて人間だった鬼に、怒り、憎しみ、殺意を抱いて戦っている。
全てが嘘だったわけではなかった。鬼舞辻にタイプライターを教えた時間、家族と笑って過ごした時間⋯⋯全てが嘘で塗り固められた物では無かった。一瞬たりとも幸せや、安らぎを感じなかったわけでは無かった。
「火憐、戦えるか?」
冨岡の声に、宇那手は頷いた。炭治郎は、四の合図を送って来た。恐らく様子を伺っているのだ。
(戦うしか無い。でも⋯⋯)