第96章 理不尽
分裂を企図した鬼舞辻は、それが上手く行かなかった事に、焦りを隠せなかった。珠世の毒が、より強力に作用したのだ。加えて──
「ああああああ!!!!」
赫刀による、あり得ない斬撃を喰らった。
(何だこの技は?! ⋯⋯そうか⋯⋯そういうことか⋯⋯。あの男の技は⋯⋯)
日の呼吸の全ての型を同時に使用した物だったのだと、彼は数百年越しにようやく理解した。
宇那手と炭治郎は、二人で日の呼吸を二分割し、鬼舞辻の身体を切り刻んだ。
「少しお願い!!」
宇那手は叫ぶと、伊黒に飛び付いた。
「どうして?! どうしてこんな怪我を⋯⋯嗚呼⋯⋯」
彼は、冨岡を庇い続けていたのだ。
「もう良いです。休んで──」
「助かると思うか?」
伊黒は、初めて露わにした口元を、僅かに緩めた。
「元々、あの一撃で骨が折れていた。目も見えない。失血も酷い。俺は死ぬ。それでも戦えているのは、お前と悲鳴嶼さんが守ってくれたお陰だ。⋯⋯頼む。最期まで戦わせてくれ。守らせてくれ。炭治郎を」
「せめて、痛みを取り除きます」
宇那手は、鎮痛剤を伊黒に手渡した。空中では、使用する事が出来なかった。
伊黒は受け取ったが、それを宇那手の右腕に突き刺した。
「頼む。”お前と”炭治郎を守らせてくれ」
彼は宇那手の腕から逃れ、再び攻勢に出た。
(そう⋯⋯。貴方が未来を捨ててまで、私たちを守ってくれるのなら)
宇那手は、キッと顔を上げた。
「伊黒さん、私の援護を!! 冨岡さんは炭治郎を!!」
力のバランス的に考えても、それが最適の采配だった。炭治郎は四の合図を送って来た。宇那手もそれに応じた。
善逸と猪之助も善戦していた。何とか持ち堪えられそうだと思った矢先。