第95章 隻腕の剣士
(俺のせいだ⋯⋯俺のせいだ!!)
冨岡は猛攻を続けながら、激しく悔いていた。本来ならば、右腕を失うのは自分のはずだった。
一秒以下の間に、宇那手は最善の判断をした。冨岡を蹴り飛ばし、凪でカナヲを庇い、利き手で毒を打ち込んだ。
戦い全体を見れば、それが最善と分かっていても、冨岡は悔いる事をやめられなかった。
継子が、家族が、最愛の人間が、眼前で腕を斬り落としたのだ。
宇那手の容姿が整っていた分、その光景は余計に強烈な物だった。冨岡は頭を打った際に生じた目眩と、凄惨さに吐いた。
それでも、戦う事を止めるのは許されなかった。炭治郎が粘っている。
彼は毒を喰らいながらも、日の呼吸を順に繰り出していた。何か意味があるのだと思った。
冨岡は、必死に後輩を鬼舞辻の管から守り続けた。
(誰か⋯⋯頼む!! 努力しても⋯⋯どれだけ努力しても、俺では⋯⋯俺一人では敵わない⋯⋯)
「カアァッ! 夜明ケマデマデ五十九分!!」
伊黒が戦闘に復帰した。彼は消耗した炭治郎を抱え、しばし時を稼いだ。
炭治郎が攻勢に戻った時、鬼舞辻の身体に無数の傷跡が浮かび上がった。
「其処を狙いなさい!」
想定外の声に、誰もが震えた。
「其処が急所です」
宇那手は、左手に刀を構え、堂々と立っていた。死にそうな様子はまるで無い。
(日の呼吸、漆ノ型 斜陽転身)
「何故だ?! 何故威力が衰えない?!」
鬼舞辻は驚愕した。宇那手は、体格にも恵まれておらず、死んでもおかしくない状態だったはずだ。
「童磨と手合わせをした時、お伝えしたはずです。私は隊士の訓練のため、左手で刀を振るえるんですよ。⋯⋯まあ、流麗さや、精巧さは損なわれますが。竈門君!!」
宇那手は、左腕で抱え込む様に炭治郎をかっ攫った。
「竈門君。私と同時に、壱を除いた、四の倍数で日の呼吸を使用してください。最初の一撃で意図が分かるはず」
彼女は炭治郎を離し、深く息を吸った。筋力、腕力共に衰えた今、技の威力は呼吸に懸かっている。