第94章 最終決戦
「火憐様!!」
後藤は死にそうな声で叫んだ。
「火憐様!! カナヲ!!」
「大丈夫」
宇那手は、赫刀で傷口を焼いていた。
「大丈夫。最初から、こうするつもりだった。治療の用意もしてある」
宇那手は、少し歪んだ視界の端を、炭治郎が駆け抜けて行くのを確認した。現在、動けるのは、彼と冨岡だけだ。
(大丈夫。毒が効いている。そろそろ珠世さんのも⋯⋯。銃も⋯⋯良く訓練されていた。一撃も、私たちに当たらなかった。跳弾しなかった。⋯⋯少しだけ、頑張って)
「⋯⋯喰われるつもりだったの?」
カナヲの泣きそうな声を聞いて、宇那手は無理に笑った。
「右手だけね。肩まで喰われても良かったんだけど、軽傷でなにより」
「何処が軽傷ですか!!」
後藤は、既に治療を受け始めていた悲鳴嶼の隣に宇那手を寝かせた。
愈史郎は、彼女を見て顔を顰めた。
「浅井を呼んで来い!!」
すぐに隠が走り去った。
「お前⋯⋯何を考えて──」
「喰われなくて、ごめんなさい。珠世さんだけを⋯⋯犠牲に生き残って──」
「そんな風に考えてねえよ!! お前、何を使った? 二か月で、何を作った?! 何故無惨があそこまで弱った?!」
「⋯⋯古い記録を読みまして。子供向けの絵本を⋯⋯鬼舞辻の娘に読んでいて気が付いたんです」
宇那手は、意識を落とさない様に、言葉を紡いだ。
「⋯⋯真相は⋯⋯鬼である事に苦しんだ女性が⋯⋯人並みの幸せを求めた。自分は食事を摂らなくても生きて行けると言い、男と結婚した⋯⋯。だけど⋯⋯本当に食事を摂らない事を疑問に思った男は、ある日こっそり、妻の部屋を覗いた。すると、妻の頭に大きな口があり、鳥を丸呑みしていた。男は⋯⋯妻を化け物と罵り、妻は怒りに駆られ、男を追い掛けた。男は⋯⋯逃げて⋯⋯逃げて、そして⋯⋯助かった。其処には──」
「菖蒲か」
愈史郎は、悲鳴嶼の止血を終えて、呟いた。
「⋯⋯迷信だと思っていた。盲点だった」