第93章 反旗
「⋯⋯なんで⋯⋯貴女まで⋯⋯そんな」
「竈門君。君は優しいつもりかもしれない。鬼に情けを掛けているつもりかもしれない。でも、何も見えていない。私は怒っていますよ」
宇那手は、遂に鬼舞辻に背を向けて話し始めた。
(他の柱が来るまで、時間を稼がなければ⋯⋯)
「家族を失い、一人心の傷と向き合っていた冨岡さんを追いかけ回したこと。彼には休息が必要だった。けれど、貴方は冨岡さんの意思に関係なく、昼夜問わず追いかけ回した。自分では正しい事をしたと思って疑わない、貴方が許せない。貴方は、鬼舞辻無惨の何を知っているのですか? 彼には、まともな家族がいなかった。心から身体の不調を案じ、治療を施してくれる医者もいなかった。だからこの人が、こういう考えを抱くことは、ごく自然な事なんです。貴方が鬼を恨む事が自然な事である様に、この人が人間を疎ましく思うのも、普通のこと」
「火憐、お前はどちらにつくつもりだ?」
鬼舞辻は、低い声で訊ねた。
「童磨に深傷を負わせた事には、目を瞑ってやろう。お前には、アイツを殺す資格があった。猗窩座は、己の意思で死んでいた。黒死牟との戦いでも、お前は全力を出していなかったな?」
「⋯⋯もう少し、貴方の考えを知りたい。鬼殺隊に対する貴方の思いを」
(甘露寺さんと伊黒さんが傍にいる⋯⋯)
宇那手は、悲鳴嶼の到着を待つ事にした。
「私に殺されることは、大災に遭ったのと同じだと思え」
鬼舞辻の言葉に、宇那手も顔を僅かに引き攣らせた。
「何も、難しく考える必要はない。雨が、風が、山の噴火が、大地の揺れが、どれだけ人を殺そうとも、天変地異に復讐しようという者はいない。死んだ人間が生き返ることはないのだ。いつまでも、そんなことに拘っていないで、日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう。殆どの人間がそうしている。何故お前たちはそうしない? 理由はひとつ。鬼狩りは異常者の集まりだからだ。異常者の相手は疲れた。いい加減、終わりにしたいのは私の方だ」