第93章 反旗
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無惨復活を鴉が告げた瞬間、冨岡、炭治郎、宇那手は、鬼舞辻の元へ転移させられていた。
この三名が捕縛されたのは、鬼舞辻が日の呼吸の剣士に拘ったからだろう。宇那手は、まだ姿を隠していた。
「炭治郎。落ち着け。⋯⋯落ち着け」
冨岡は、自身に言い聞かせる様に繰り返した。
対して鬼舞辻は、気怠げに口を開いた。
「しつこい」
炭治郎や冨岡にとっては、耳を疑う様な言葉だった。
「お前たちは本当にしつこい。飽き飽きする。心底うんざりした。口を開けば親の仇、子の仇、兄弟の仇と馬鹿の一つ覚え。お前たちが生き残ったのだから、それで充分だろう」
鬼舞辻の心境をある程度理解していた宇那手は、複雑な表情を浮かべていたが、炭治郎と冨岡は、信じられないモノを見る表情を浮かべていた。
鬼舞辻の不満は尚続く。
「身内が殺されたから、何だというのか。自分は幸運だったと思い、元の生活を続ければ済むこと」
「お前は何を言っているんだ?」
炭治郎は声を震わせた。
「貴方には理解出来ないかもしれませんね」
宇那手は、姿を見せ、鬼舞辻と、既に手負の冨岡達との間に立った。
「見返りを求めない愛情を注いでくれる家族。家族を愛せる様に育ててくれた、親のいる人間には、到底理解し難い考えかと思います。でも、鬼舞辻にとっては、当たり前で、普通の考え方なんです。私も、冨岡さんと出会っていなければ、同じ考えに至っていたでしょう。貴方達恵まれた人間が、当たり前の様に持っていた家族を、手にしていなかった人間もいるのです。鬼舞辻や、私や、カナヲの様に」
彼女は鬼舞辻に対して何の殺意も見せずに言葉を続ける。
「家族⋯⋯少なくとも、母が私に注ぐ愛情には、常に条件があった。衣食住を保証する代わりに、貞淑な娘に育つ事。高い教養を身に付け、良家に嫁ぐ事。いえ、良い殿方を引き入れ、藤の紋の家系を継ぐ事。しかし、自分を押し殺した私の努力も、悪鬼滅殺という言葉の元、無に帰した。母は、私を犠牲にすることを厭わなかった。⋯⋯一人生き残った時、正直ほっとしました。これで、自由に生きられる、と。幸運だったと思いました」