第92章 上弦ノ壱
「同じ⋯⋯気持ち⋯⋯なん⋯⋯だ。兄弟⋯⋯だから⋯⋯。つらい⋯⋯思いを⋯⋯たくさん⋯⋯した⋯⋯兄ちゃん⋯⋯は⋯⋯幸せに⋯⋯なって⋯⋯欲しい⋯⋯。死なないで⋯⋯欲しい⋯⋯。俺の⋯⋯兄ちゃん⋯⋯は⋯⋯この世で⋯⋯一番⋯⋯優しい⋯⋯人⋯⋯だから⋯⋯」
「頼む神様!!! どうか!! どうか!!! 弟を連れて行かないでくれ!! お願いだ!!!!」
「大丈夫です。大丈夫です、二人共」
宇那手は、ボロボロ泣きながら、鬼を人間に戻す為の薬を使用した。
「あり⋯⋯が⋯⋯とう⋯⋯。兄⋯⋯ちゃん⋯⋯。火憐⋯⋯さん⋯⋯」
「ああああああ!!! 玄弥!!」
崩れ行く体に縋り付く不死川の背を、宇那手は摩った。
「どうして?! どうして早く効いてくれないのよ!!」
彼女は解毒用に取っておいた、赤い簪を残った玄弥の体に突き刺した。
「ごめんなさい⋯⋯。ごめんなさい⋯⋯」
宇那手は、僅かに残った髪の毛を手にした。
「ごめんなさい!! これしか残せなかった!!! ごめんなさい⋯⋯実弥さん⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ありがとう」
しばらく経って、実弥はようやく呟いた。
「残してくれて、ありがとう」
「⋯⋯ごめんなさい」
宇那手はひたすら謝り、玄弥の髪を納めた藤の御守りを不死川に手渡した。
そして、誰よりも早く立ち上がり、悲鳴嶼の怪我の具合を見た。
「⋯⋯戦えますか? 冨岡さんも、実弥さんも重傷です。私一人でも構いません」
「もう二度と、お前一人を戦わせはしない」
「無惨が復活します。気配が濃くなっている」
宇那手は顔を上げ、刀の様子を見た。刃こぼれは無い。強度も。最強の刀だ。